子宮頸がんの妊孕性温存治療
札幌医科大学附属病院
婦人科
北海道札幌市中央区

子宮頸がんとは
子宮は赤ちゃんを育てる臓器で、育てる「子宮体部(たいぶ)」と早産を防ぐ「子宮頸部(けいぶ)」に分かれます(図1)。子宮頸がんは、子宮頸部に発生する浸潤(しんじゅん)(*1)がんのことをいいます。発見時のステージによって、子宮や卵巣を温存できる可能性があります。子宮・卵巣を温存できる可能性のある子宮頸がんは、ⅠA1からⅠB1期にあたります(図2)。その中でAYA世代(Adolescent and Young Adult〈思春期・若年成人〉の頭文字をとったもので、主に、思春期〈15歳~〉から30歳代までの世代を指します)と呼ばれる39歳以下の患者は年間約1100人であり、妊孕性(妊娠するための機能)温存を希望する患者さんは200人程度います。お子さんがほしいという希望を叶える治療を行うには条件がありますが、当院婦人科では妊孕性温存治療に積極的に取り組み、がんの根治(こんち)性(*2)を保ちつつ術後の妊娠率や出産率についてのデータを公表しています。


*1 浸潤:がんがまわりに広がっていくこと
*2 根治:完全に治すこと。治癒
原因・症状
子宮頸がんは主にヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因で子宮頸部の上皮に変化を起こし、子宮頸部異形成を経て浸潤がんとなることが多いです。子宮は骨盤の中心に位置し、お腹(なか)側に膀胱(尿の通り道)、背中側に直腸(便の通り道)があります。そのため、進行してしまうと出血だけではなく排泄に伴うさまざまな症状が現れることがあります。
検査
1.細胞診(がん検診)・HPV検査
子宮頸がんは腟(ちつ)から病変を観察することができます。そのため、腟鏡診を用いて子宮頸部から細胞をとってくる細胞診検査やHPV検査を行います。
2.コルポスコピー・組織診断
子宮頸部細胞診で異常を認めた場合は、子宮頸部・腟を拡大して観察します。そのときに病変があれば数mmの組織を鉗子(かんし)でつまんでくる生検や、子宮頸部を円錐状に切除して顕微鏡でがんを詳しく見ます。
3.MRI・CT検査
MRI検査を行って、がんの大きさや子宮周囲への広がりを見ていきます。CT検査を行って、がんが体の中のリンパ節や子宮から離れた肝臓・肺などに転移がないかどうか調べます。
治療
1.がんのステージと治療法
子宮は卵管・卵巣とつながっており、卵巣から出るホルモンの影響で月経を起こし、妊娠時には赤ちゃんを育てます。そのため、大きくなる子宮体部を支える靭帯(じんたい)は緩やかで、ハンモックのようなイメージです。
子宮頸部は、未熟な赤ちゃんのお産を防ぐために腟と子宮をつなぐ部分でしっかりした靭帯で固定され、普段は閉じています。がんがどの程度広がるかでステージが決定しますが、標準的な治療は子宮全摘~広汎子宮全摘(子宮のほかに腟の一部、靭帯を広く切除する)やリンパ節郭清(せつかくせい)(*3)、放射線や化学療法となります。
*3 リンパ節郭清:手術の際に、がんを取り除くだけでなく、がんの周辺にあるリンパ節を切除すること
2.腟式トラケレクトミー
トラケレクトミーとは「図3」のように子宮頸部・腟・靭帯を摘出し、子宮と卵巣を温存することを指します。当院では国内で唯一、腟式にトラケレクトミーを行っています。お腹を切らず子宮を支える組織を残すことで、術後の癒着が少なく妊娠・出産に良いという点があります。

3.術後の合併症と妊娠
手術後は病理検査を確認して再発がないか経過をみていきます。追加治療がなければ半年ほどで妊娠が可能です。しかし、子宮頸部は短くなるため、不妊症や切迫早産を合併する頻度が高くなりますので注意してみていきます。
ワクチンと検診について考えよう!
がんの治療はもちろん大事ですが、予防やがん検診も大切です。子宮頸がんの多くはHPVワクチンで予防できることがわかっています。また初期の頃は症状に乏しく検診が重要です。外来で気軽にお聞きください。
本疾患の関連病院(紹介を受けてフォローアップ可能な病院)
【札幌市】NTT札幌病院
【旭川市】旭川市立病院
【北見市】北見赤十字病院
【室蘭市】製鉄記念室蘭病院、日鋼記念病院
【函館市】函館市立病院、函館五稜郭病院
【帯広市】帯広協会病院
【釧路市】市立釧路総合病院
更新:2024.09.23