高次脳機能障害の適切な評価とリハビリテーション
札幌医科大学附属病院
リハビリテーション科
北海道札幌市中央区

高次脳機能障害とは?
脳は手足の運動だけでなく、言語を操る、道具を使う、見て・聞いて対象を認知する、空間や街を移動する、物事を記憶して思い出す、重要なことに注意を集中する、目標に向かって遂行するなどの高次な働き「高次脳機能」のすべてを担っています。脳卒中や外傷性脳損傷などによって脳に損傷が起こると、さまざまな高次脳機能障害が起こります。
高次脳機能障害とは、どんな症状が起こるの?
ヒトの大脳は、左半球と右半球で高次脳機能における役割が異なり(図1)、大多数の者で左半球が言語性優位半球です。右半球の得意分野は何かというと、周りの空間と左右の偏りなく付き合う「空間性注意」や顔・風景・道順の認知です。

脳卒中は、通常、片側の大脳半球に起こります。そのため、脳出血や脳梗塞(のうこうそく)が左半球に起こると言語の障害である失語症が、右半球に起こると左側の空間と付き合えない半側空間無視(はんそくくうかんむし)(*)がしばしば起こります。
一方、外傷性脳損傷では前頭葉と側頭葉が損傷されやすく、しばしば両側やあちこちに散らばって起こるため、一見して普通に見えても次のような問題が生じます。集中力が乏しく長続きしない注意障害、長い話が頭からこぼれてしまう記憶障害、計画性と柔軟性をもって目標を遂行できない遂行機能障害、言動を抑制できない行動障害などです。
*半側空間無視:注意が向かって右側に向きやすく、左側に向きにくい症状で、食事の左側を食べ残したり、左側のものにぶつかったりする
何がうまくいって、何がうまくいかないのか?
何がうまくいって、何がうまくいかないのかを正しく評価することが大切です。
例えば、失語症ではそのタイプと重症度、外傷性脳損傷によるものでは、注意障害や記憶障害の内容や程度を明らかにすることが、診療の第一歩です。記憶障害でも、長い話が覚えられなかったり、言葉の組み合わせが覚えられなかったりと、いろいろなタイプがあります(図2)。

高次脳機能の評価には、知能検査、記憶検査、注意検査、遂行機能検査など、さまざまな神経心理学的検査法が用いられます。これらは、患者さんの状態に応じて適切なものを選択して実施します。知能指数のような総合的成績だけでなく、結果を深く読み解いて、障害の本質に迫る一方で「できる」ことを把握します。
リハビリテーションの実際
高次脳機能障害の評価とリハビリテーション訓練は、作業療法士と言語聴覚士が担当します。評価の結果として、回復の可能性がある機能は、課題のレベルを調整しながら個別対面の療法を行うほか、いわゆる「宿題」で自主練習もしてもらいます。
一方、記憶障害の場合のように、記憶法を用いてもなかなか記憶自体を改善できない場合は、メモのような代償手段を身につけてもらいます。最近では、日時や場所を知ることができ、メールなどで家族との連絡が取れ、スケジュール機能も活用できるスマホの利用も有効です。
また、患者さんが、自分の得手不得手を理解して(図3)、障害があるなりにうまく行動する方法を指導することも、リハビリテーションの一環です。

地域・社会生活への復帰に向けて
退職後の場合は、在宅生活が有意義に送れるように、介護保険の利用や該当すれば障害者手帳の申請などを案内し、診断書関係を記載します。外傷性脳損傷は、就労・就学している年齢層でも起こりますので、より幅広い対応が求められます。
仕事中の事故であれば労災保険、交通事故であれば自賠責保険による対応があり、後遺症診断を正確に行わないと、患者さんの生活にもかかわってきます。また、就労継続支援事業や就労移行支援事業をはじめとして、社会資源を有効利用するために、病院以外の支援スタッフとのコミュニケーションも取ります。
私たちリハビリテーション科は、利用できるもののすべてを駆使して、地域・社会生活への復帰を支援します。
更新:2024.09.23