難治うつ病の治療法ー無けいれん性通電療法(mECT)

福井大学医学部附属病院

神経科精神科

福井県吉田郡永平寺町

無けいれん性通電療法とは

うつ病とは、気分が晴れない憂うつな状態が1日中続き、不眠、食欲不振、倦怠感(けんたいかん)、やる気・物事への興味・喜びの感情が出てこない――などの症状がみられる脳の不調です。過労やストレスが関係していることが多いのですが、それだけでは説明がつかないほどの状態が持続し、休養だけではなかなかよくなりません。抗うつ薬を中心に、薬物療法で治療しますが、薬物療法をしてもなかなかよくならない患者さんがまれにいます。当院では、そのような難治うつ病の患者さんに対して、無けいれん性通電療法(mECT)という治療を行っています。

電気けいれん療法とも呼ばれる通電療法の歴史は古く、1930年代に精神疾患の治療法として、ヨーロッパで開発されました。最初の抗うつ薬の登場が1950年代ですから、いかに長く支持され続けてきた治療法であるか、お分かりいただけることでしょう。

通電療法は、精神科医療とともに技術的に進歩し、より安全で副作用の少ない方法となりました。そして全身麻酔・筋弛緩薬を使用することで、けいれんを生じない方法として開発されたのが、無けいれん性通電療法です。しかし、この治療には、麻酔科医師の協力が必要となり、当県で施行できる病院はわずか数か所のため、当院には他院から通電療法依頼の紹介が数多くあります。

通電療法の方法

当院での通電療法の方法を紹介します(図)。1週間に約2回の頻度(ひんど)で、手術室にて麻酔科医師による全身静脈麻酔のもと、精神科医師が施行します。心電図や脳波、筋電図のモニタリングを行い、通電の時間はわずか5~7秒程度で、麻酔で眠っている間に終了し、恐怖感や苦痛を伴うことはありません。前夜から絶飲絶食などの措置が必要で、手術室や麻酔科医師の調整も必要なため、入院治療で行います。重篤な副作用や死亡はごくまれで5万回に1回程度と考えられ、これはお産の危険より小さいくらいです。時に、物忘れ、頭痛、ふらつき、嘔気(おうき)がみられることもありますが、いずれも軽症で一過性で回復します。しかもパルス波治療器(サイマトロン®、写真)という最新機器が開発されてからは、副作用はさらに軽減しています。

図
図 mECT
写真
写真 mECTに使用されるパルス波治療器/サイマトロン®
米国ソマティックス社
(光電メディカル ホームページより)

通電療法は、薬物療法に比べて、即効性があり、また有効率が8~9割と高いことが特徴です。だいたい6~12回で症状が完全に消失する程度にまで治り、終了後は通常の薬物療法で、うつ症状のぶり返しを防いでいく方針となります。

更新:2023.09.11