下部消化管疾患に対する積極的な腹腔鏡治療
愛知医科大学病院
消化器外科
愛知県長久手市岩作雁又
大腸がんに対する腹腔鏡治療
当院では、大腸がんに対して腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)を積極的に行っています。腹腔鏡手術は、ポートと呼ばれる細い筒を体に挿入して、お腹(なか)の中を二酸化炭素の気体で満たし、膨らませて手術を行いま(写真1、5)。原発性大腸がん症例に対しては、7割以上を腹腔鏡手術で施行しており、良好な成績が得られています。
腹腔鏡手術は従来の開腹手術に比べて傷が小さく、手術翌日から歩行が可能です(写真2)。結腸がんでは術後3日目から、直腸がんでは4~6日目から食事を開始します。経過に問題なければ、結腸がんでは術後7日目に、直腸がんでは7~14日で退院となります。
究極の肛門温存手術――括約筋間直腸切除術(ISR)
直腸がんの中でも、肛門から5cm以内の病変は従来の術式では肛門温存が不可能でした。肛門は、自分の意思で力を加えられる外肛門括約筋(がいこうもんかつやくきん)と、意識しなくても肛門に静止圧を加え括約筋の緊張を維持する内肛門(ないこうもん)括約筋で構成されています。
活約筋間直腸切除術(かつやくきんかんちょくちょうせつじょじゅつ)(ISR)とは外肛門括約筋を温存して、直腸に連続する内肛門括約筋のみを切除する術式で、究極の肛門温存術式と呼ばれています(図)。大腸を肛門につなぐ吻合(ふんごう)は、直接肛門側から施行します(写真3)。肛門の安静を保つために一時的に人工肛門を造設しますが(写真4)、3~6か月をめどに閉鎖し自然排便機能を回復します。
当院では、このISR術式を腹腔鏡で施行し、従来では温存が難しかった症例でも、根治性を損なうことなく肛門温存手術を達成しています。
大腸がんに対する集学的治療
肝臓や肺に転移を伴う進行大腸がんであっても、化学療法、放射線療法を使用し腫瘍(しゅよう)の縮小および病勢のコントロールが行われれば、手術療法を導入します。その際には、施行可能な症例に対しては腹腔鏡での治療を行います。
また、再発がん(婦人科疾患、泌尿器科疾患も含む)に対しても積極的に手術を行っています。
炎症性腸疾患に対する腹腔鏡治療
潰瘍(かいよう)性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患に対しての手術を、消化管内科と連携して行っています。炎症性腸疾患に対する手術は、従来開腹手術が選択されることが多かったのですが、当院では、特に潰瘍性大腸炎に対する大腸全摘は、自然排便機能を温存しつつ、腹腔鏡手術で行います。
クローン病に対する腸管病変に対しても、症例を選択して腹腔鏡手術を導入しています。
更新:2024.10.18