今、最も進化している肺がんの治療法
浜松医科大学医学部附属病院
呼吸器外科
静岡県浜松市東区半田山
肺がんとは?
咳(せき)や血痰(けったん)、胸の痛みといった症状が肺がんの症状と思われがちですが、これらは進行した肺がんの症状であり、早期の肺がんには自覚症状がありません。症状がない段階で、健康診断や人間ドックで発見することが重要です。肺がんの最大の原因はたばこです。
たばこを吸う男性は、吸わない男性に比べて肺がんで死亡するリスクが2.5~8.4倍高くなります(図1)。
たばこの本数が増えるほど、肺がんの死亡相対危険度が上がります。また、未成年からたばこを吸っていると、非喫煙者に比べて死亡率が5.5倍になっています(図2)。
数字でみる肺がん
肺がんは、国内で男女合わせた死亡者数が、最も多いがんです。2018年には約12万2800人が肺がんと診断され、2020年には約7万5600人が肺がんで死亡しています(図3)。
また、肺がんの2009~2011年の5年相対生存率は、34.9%(男性29.5%、女性46.8%)でした。
肺がんの予防・検査・診断
まず肺がんを予防することが最も重要で、そのためには、たばこに近づかないことが大切です。受動喫煙(*1)によって、周りにいるたばこを吸わない人にも、たばこの害が出ることがわかっています。たばこを吸っている人は、今すぐに禁煙しましょう。
肺がんは自覚症状が出る前に発見することがとても重要です。そのためには、定期的に健康診断や人間ドックを受けてください。スクリーニング(*2)として、健康診断では胸部X線検査が行われ、精密検査や人間ドックでは胸部CTが行われます。
これらの画像検査で異常が見つかった場合には、診断を確定するために、病変部の組織を採取します。一般的には、気管支鏡検査(*3)によって肺がんの組織を採取し、顕微鏡で観察して、腺(せん)がん、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんといった組織型を決定します。
*1 受動喫煙/たばこの先から出る煙(副流煙(ふくりゅうえん))や喫煙者が吐き出す煙(呼出煙(こしゅつえん))にさらされ、たばこを吸わない人が煙を吸わされること
*2 スクリーニング/集団の中から、特定の病気にかかっている疑いのある人を見つけ出すこと
*3 気管支鏡/気管支に挿入する細長い管状の内視鏡
肺がんの病期決定(ステージング)
肺がんと診断がついたら、次に病期診断を行います。病期とは、進行の程度のことで、ステージといいます。肺がんの進み具合はI期からIV期の4つに分類され、それぞれの病期によって、治療法が変わってきます。この病期を決定するのが、病期診断です。
肺がんは、リンパの流れに乗ってリンパ節に転移したり、血液の流れに乗ってほかの臓器に転移したりすることが多いです。そのため、リンパ節や脳、骨、肝臓、副腎といった転移しやすい臓器を調べて、がんの広がりを診断します。
頭部MRI、腹部(ふくぶ)CT、骨シンチグラフィーなどの検査が行われます。最近では、PET-CT検査が行われることも多くなりました。これらの検査は、いずれも肺がんの広がり(転移)を調べる検査です。
肺がんの治療法
肺がんの治療は、局所治療と全身治療(薬物療法)に大きく分かれます。手術や放射線は局所治療に分類され、早期の肺がんに行われます。進行肺がんには、抗がん剤などの薬物療法が選択されますが、がんの病期によって、それぞれを組み合わせることもあります。
肺がんの手術は、以前は胸を開いて行う開胸手術(かいきょうしゅじゅつ)が行われていましたが、30年ほど前から、胸腔鏡(きょうくうきょう)というカメラを胸の中に入れ、カメラ画像を見ながら手術を行う胸腔鏡手術が始まりました。最近では、ダビンチという手術支援ロボットを使った、ロボット支援手術が急速に増えています(写真)。
肺がんの薬物療法も、近年めざましい発展を遂げています。従来の抗がん剤に加えて、分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)や免疫チェックポイント阻害剤が次々に発売され、治療成績もどんどん改善しています。
更新:2023.10.26