オーラルフレイル―口から始まる心身の衰え

浜松医科大学医学部附属病院

歯科口腔外科

静岡県浜松市東区半田山

オーラルフレイルって何?

「フレイル」とは英語の「frailty」のことで、日本語でいうと「虚弱(きょじゃく)」にあたります。人は誰しも衰え身体も動かしにくくなります。日常的な生活が営みにくくなると、他人の力を借りなければならなくなります(要介護状態)。この虚弱な状態を少しでも戻すことができれば、自立した生活を少しでも長く送ることができます(図1)。

図
図1 健常~フレイル~要介護

オーラルフレイルとは口のなかの虚弱という意味で、フレイルを早めてしまう重大な原因であるとして、近年とても注目されている概念です。

口が弱ると体も弱る

口の機能低下であるオーラルフレイルが、どうして全身のフレイルに関係があるのでしょうか?

フレイルとはまず、栄養摂取量の低下から始まります(①)。何らかの事情で栄養摂取量が下がる(ご飯を食べる量が少なくなる)と、それに続いて体重が低下していきます(②)。体重の減少は、体の筋肉量の低下からも引き起こされます(③)。この筋肉のうち、姿勢を維持したり日常的な動きを行う筋肉が低下すると、結果として基礎代謝(生活するうえで必ず使うエネルギー)も減少します(④)。そうなると、次第に体を動かすことも少なくなり、お腹(なか)もすかなくなるため、結果として栄養摂取量が低下します(①)。これをフレイルサイクルといいます(図2)。

フロー図
図2 フレイルサイクル

ここで注目しておきたいのが、栄養摂取量の低下は、口腔機能(こうくうきのう)の低下、オーラルフレイルによっても引き起こされる、という点です。さらには筋肉量の低下もオーラルフレイルの原因となり、フレイルサイクルが加速するという悪循環をもたらします。

口、弱っていませんか?

それでは、口腔機能の低下をもたらすオーラルフレイルとは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか?

●口がいつも乾いている

唾液にはたくさんの良い働きがあります。その中の1つに、口の中を清潔に保つ作用(洗浄作用)があります。また、唾液には洗浄能力があるだけでなく、歯が溶けないよう酸を中和する緩衝作用(かんしょうさよう)があります。さらには、唾液には悪い菌を退治してくれる成分が含まれており、殺菌作用もあります。

口が乾いている、つまり、唾液の量が減っていることは、口のなかの環境悪化の始まりとなります。

●噛みくだく力が落ちている

食べ物を口のなかに入れたとき、飲み込みやすいようによく噛みますよね。この噛みくだく力は、上下の歯が噛み合うことと、口の周りの顎(あご)の筋肉が動くことで成り立っています。

つまり、う蝕歯(しょくし)(虫歯)や歯周病の放置、合っていない入れ歯の使用、顎の筋肉量の低下などがあると、噛みくだく力が落ちていきます。噛みくだく力が弱まると、自然と食欲がなくなっていき、少ししか食べられなくなっていきます。

●うまく飲み込めない、むせたりしやすい

食べものを飲み込むとき、喉(のど)の周りは複雑な動きをします。舌で喉の奥に押し込まれた食べ物が、間違って気管に入らないように調整しています。そうした調整がうまくいかないと、食べ物が誤って気管に入り、誤嚥(ごえん)という症状が出ます(図3)。

図
図3 誤嚥性肺炎

誤嚥を引き起こす原因として、舌の力が弱まっていることや、食べものをうまく口のなかでまとめることができないことなどが挙げられます。誤嚥を繰り返していると、口のなかの細菌が気管を通り肺に入り込むことで、誤嚥性肺炎の発症につながります。

いつまでも健康でいるために

オーラルフレイルから健常な状態に戻るために、口のなかの不調を感じたら、まず歯科を受診しましょう。う蝕歯の治療、歯周病の治療を行い、抜かなければいけない歯は抜歯をします。歯がなくなったところには、ブリッジや入れ歯などを作って、噛めるようにする必要があります。

唾液の分泌や舌の運動など、個人に合った口のリハビリ方法の指導を受けることもできます。口のなかの状況は、「痛みがなければずっと同じ」「変わっていない」と思っていたら大間違いです。自覚症状がなくても徐々に口の機能は低下していきます。

40~50歳代から、オーラルフレイルは始まるといわれており、その多くは歯科検診をおろそかにした結果、口のなかの環境悪化が原因で起こっています。ちょっとした不調でわざわざ歯科に行くことはめんどくさいと思いがちですが、定期的に歯科に行く習慣があれば、ついでに相談ができるのです。

全身のフレイルを防ぐためには、口の健康を守ることが重要であると認識し、自分で自分の口を守りましょう。歯科医師は、全力でその手助けをします。

更新:2023.10.26