口唇口蓋裂をはじめとする先天性頭蓋顎顔面異常に対するチーム医療
藤田医科大学病院
形成外科
愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪
先天性頭蓋顎顔面異常とは?
先天性頭蓋顎顔面異常(せんてんせいとうがいがくがんめんいじょう)とは、生まれつきの異常により頭蓋骨や顎(あご)、顔の変形、機能的障害をきたしている状態をいいます。遺伝がはっきりしているものもあれば、はっきりしていないものもあります。これらの部位は視覚や聴覚、発語にかかわる部分で、呼吸や食事摂取といった生命維持に欠かせない機能を有しています。また顔はその形態そのものがその人の個性を現し、その表情が感情を表現するものでもあるため、社会生活を営むうえで欠かせない身体パーツであるといえます。したがって、その治療にあたっては機能面の改善はもちろん、整容面にも十分配慮しながら治療を行う必要があります。
代表的な病気は?
先天性頭蓋顎顔面異常の代表的な病気としては、頭蓋骨縫合早期癒合症(ずがいこつほうごうそうきゆごうしょう)や口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)、第1第2鰓弓症候群(さいきゅうしょうこうぐん)などがあります。
頭蓋骨は7つの骨のピースに分かれており、それぞれの骨片のつなぎ目を頭蓋縫合といい、赤ちゃんの脳の成長に伴ってこのつなぎ目から頭の骨が拡大していきます。頭蓋骨縫合早期癒合症ではこの頭蓋縫合が出生前もしくは出生後早期に癒合してしまうために頭蓋の拡大が起こらず、頭蓋骨がいびつになったり、頭蓋内圧が高くなって脳の発達に影響を与えたりします。また顔の形に影響してくる場合もあります(図1)。
口唇裂とは生まれつきクチビルから歯ぐきにかけて割れている形態異常で、口蓋裂とは口の中の口蓋(天井部分)から“のどちんこ”の部分にかけて割れている形態異常です。両者は合わさって生じることも多く、その場合は口唇口蓋裂と呼びます。こうした赤ちゃんは国内では500人に1人生まれるとされ、決してまれな病気ではなく、その割れ目も右側、左側、両側に生じるものや、割れ目の幅や長さの程度もさまざまです。この部分は飲んだり食べたり、言葉を発したりする際に重要であるばかりか、顔のほぼ真ん中の部位に現れる先天異常であるため、整容面での問題もたいへん大きいことはいうまでもありません(図2)。
鰓弓とは妊娠4週初めごろの胎児にできてくる、顔や頚部(けいぶ)のさまざまな器官を作るもとになる構造体で、第1から第6まであります。第1第2鰓弓症候群とは、このうち第1鰓弓と第2鰓弓に何らかの異常が発生して下あごや耳、口などの形に異常を引き起こす先天性の病気で、国内では3000~3500人に1人の割合で生まれ、顔面の先天異常としては口唇口蓋裂に次いで多い病気です。小下顎症(しょうかがくしょう)、巨口症(きょこうしょう)、小耳症(しょうじしょう)、先天性顔面神経麻痺(まひ)などの症状がみられ、また小下顎症に起因して閉塞性睡眠時無呼吸症候群(へいそくせいすいみんじむこきゅうしょうこうぐん)や噛み合わせの異常といった問題も起こるため、治療が必要となります。左右どちらか片側に生じる場合が多いですが、両側に生じることもあり、その場合はより重症となります(図3)。同様に小下顎症をきたす病気として、ピエール・ロバン・シークエンス(ピエール・ロバン症候群)、トリーチャー・コリンズ症候群、ゴールデンハー症候群などもあります。
先天性頭蓋顎顔面異常に対する治療
先天性頭蓋顎顔面異常に対する治療は、機能面の改善はもちろん整容面にも配慮しながら治療にあたる必要があります。その中心となるのは形成外科ですが、関連各科の協力体制が不可欠であり、チーム医療が治療を成功に導くカギとなります。
すなわち、頭蓋骨縫合早期癒合症では脳外科との連携・共同手術が必要不可欠であり、患児の成長発達のフォローは小児科にお願いします。また口唇口蓋裂では小児歯科、矯正歯科、口腔(こうくう)外科、耳鼻科、リハビリ科(言語訓練)、小児科など関連各科との連携や集学的治療が成長終了時まで続きます。第1第2鰓弓症候群においても小児歯科、矯正歯科、耳鼻科との連携は必須です。小下顎症では生まれた直後からうまく呼吸ができない赤ちゃんも多いので、そうした場合には小児科新生児担当グループにNICUで呼吸管理をしてもらいながら、形成外科が介入していきます。もちろんこうした患者さんたちの手術では麻酔管理も容易ではないため、麻酔科・ICUの協力も不可欠となります。
当院の口唇口蓋裂センターを中心とした集学的治療
当院の口唇口蓋裂治療の取り組みとしては1986年にチーム医療を開始し、1992年に口唇口蓋裂センターを全国に先駆けて発足させ、これまで二千数百人の患者さんたちの治療を行ってきています。関連各科それぞれが専門とする分野を担当しつつ、それらの治療を効果的に組み合わせて治療成績の向上を図るという、まさに集学的治療を実践しています。これは各科が別々に治療を行うというのではなく、2か月に1回は全員が一堂に会し、センターカンファレンスを行いながら緊密に連携を取って、協力し合いながら治療を進めるというものです。また成長期に不要な手術を繰り返すことなく、成長や学校生活にも支障をきたさないように十分な配慮を行っています。
当科が目指す治療のゴールとは?
先天性頭蓋顎顔面異常に対する治療では、機能面の改善と整容面の改善の両立が求められます。すなわち、機能面では障害のないお子さんと同等になれるように、整容面では可能な限り正常形態に近づけ、可能な限り瘢痕(はんこん)は目立たないようにしたいと考えています。患者さんやその家族は、できることなら病気の特徴をすべて消し去るようにしたい、そう思われているはずです。私たちもそれが目指すべきゴールであると考えています。
更新:2024.10.09