悪性軟部腫瘍の根治をめざして
札幌医科大学附属病院
整形外科
北海道札幌市中央区

悪性軟部腫瘍とは
悪性軟部腫瘍は肉腫(サルコーマ)ともいわれ、がんの一種です。全がんの約1%と発生頻度(ひんど)が非常に少ないため、希少がんともいわれています。組織型が多様であり、その腫瘍に応じた治療法を選択する必要があります。当院では多数の診療科と協力して肉腫の治療にあたっており、肉腫の根治(こんち)(*1)をめざしています。
*1 根治:完全に治すこと。治癒
原因・症状
胃や大腸などの上皮性組織ではなく、筋肉や神経など非上皮性組織から発生する悪性腫瘍を肉腫(サルコーマ)と呼びます。1年間に10万人あたり約6人程度の発生率で非常にまれな疾患です。
肉腫はがんと異なり、染色体の異常により発生することが比較的多いとされています。通常、無痛性の“しこり”として自覚されます。痛みがないことから悪性と認識されることはほとんどなく、大きな“しこり”になってから病院を受診される場合がほとんどです。
しこりといっても一様ではなく、さまざまな種類(組織型)があるのが肉腫の特徴です。年齢(年代)ごとに発生する肉腫がある程度決まっています。また全身どこにでも発生しますが、太ももなどの下肢(かし)(写真)とお腹なかの後ろ側に発生することが多いのも特徴の1つです(図)。

B: MRI像 大腿内側に肉腫(白い領域)

検査
治療前に画像検査と病理検査が必須です。がんと異なり有用な腫瘍マーカーはありません。病巣の進行程度や広がり具合の尺度である病期(ステージ)分類を行い治療法が決定されます。
1.画像検査
腫瘍の場所や性質の診断のために造影剤(ぞうえいざい)を用いたMRI検査を行っています。またステージを見るために胸腹部CT検査を行います。病理医、放射線診断医と合同でカンファレンス(検討会)を毎週行い、適切な診断に努めています。
2.生検に基づく病理診断
腫瘍の診断は病理検査により決定されます。検体採取では、外来で行うことができる針生検を主に実施しています。組織型診断と悪性度分類を行います。悪性度は低悪性度と高悪性度に分かれます。病理部と協力して、迅速で正確な組織診断を心がけています。
治療と当院の特色
1.肉腫の病期
低悪性度肉腫はステージIであり、手術療法のみを行います。遠隔転移のない高悪性度肉腫はステージII、IIIであり、手術療法と必要に応じて化学療法を行っています。転移を認めるステージIVでは基本化学療法を適応します。
2.化学療法
化学療法が効きづらいことが多く、すべての患者さんに行うわけではありません。ステージII、IIIの周術期(*2)の化学療法では、高悪性度、大きさが5cm以上、深部発生の場合に行っています。腫瘍内科と小児科で周術期や、進行期の化学療法を安全に行うよう努めています。
*2 周術期:入院、麻酔、手術、回復といった、患者の術中だけでなく前後の期間を含めた一連の期間
3.手術療法
正常組織で包むように腫瘍を露出させずに切除を行います。これを広範切除といいます。正常組織の切除に伴い機能障害の危険性がありますが、再発を起こさない範囲で、できるだけ機能を温存するよう努めています。
機能をより高めるために、当院では手術用顕微鏡を使ったマイクロサージャリー(微小な外科手術)による自家組織再建を積極的に行っています。さらに呼吸器外科と共同で、肺転移巣の切除や多くの胸壁腫瘍切除・再建も行っています。
しこりは放置しないでください!
悪性軟部腫瘍は痛みなどの症状が少ないことが知られています。しこりを自覚したら、すぐに専門医施設を受診してください。早期診断・治療が最も大切です。
更新:2024.09.23