難治性びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫の最新治療
日本医科大学付属病院
血液内科
東京都文京区千駄木

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫とは?
びまん性大細胞型(だいさいぼうがた)B細胞リンパ腫(しゅ)(DLBCL)は、病気の進行が月単位で進む中悪性度のリンパ腫の1つで、国内において最も高頻度に診断される悪性リンパ腫です。旧来の抗がん化学療法のみでは治癒率が低く、副作用による苦痛も大きなものでした。しかし、抗体分子標的治療薬の進歩や抗がん化学療法の副作用に対する支持療法(※1)の発展によって、現在では治療成績が上がり、副作用による苦痛も軽減されてきています。
ただ、分子標的治療薬と抗がん化学療法を組み合わせた治療を行っても、依然として約30%程度の患者さんが再発してしまうのが現状であり、さらなる予後(※2)の改善をめざした最新治療の開発が進められています。
※1 支持療法:吐き気やアレルギー反応などの副作用を抑える治療法
※2 予後:今後の症状についての医学的な見通し
難治性DLBCLに対する救援化学療法
難治性DLBCLの患者さんに対しては、先行して行われた化学療法とは異なるタイプの抗がん剤を組み合わせた抗がん化学療法を実施することが一般的です。これは、先行した抗がん剤と類似した構造や作用を有する薬物に対しては、リンパ腫細胞に耐性(たいせい)(※3)が生じていることが多いからです(交叉(こうさ)耐性と呼びます)。再発・難治性の患者さんであったとしても、その約半数は交叉耐性のない抗がん化学療法を実施することで、リンパ腫を寛解(かんかい)(病気が検知できないまでに縮小した状態)させることができます。
しかし、寛解に至ったとしても、長期的に寛解を維持する可能性は20%程度と低いことが知られています。そのため、健康状態を維持している患者さんでは、自己(じこまっしょうけつぞうけつかんさいぼういしょく)末梢血造血幹細胞移植(じこまっしょうけつぞうけつかんさいぼういしょく)や細胞免疫治療による追加治療を検討します(図1)。

※3 耐性:細菌やウイルスが薬に対して抵抗力を持つようになり、薬が効かなくなること
難治性DLBCLに対する自己末梢血造血幹細胞移植
難治性DLBCLのうち、救援化学療法によって寛解状態に至った患者さんには自己末梢血造血幹細胞移植による追加治療を検討します。
自己末梢血造血幹細胞移植では、通常の抗がん化学療法の何倍もの力価(りきか)(薬の強さ)に相当する高用量の抗がん剤を用います。この高用量抗がん剤による致死的な血液障害を回避するために、事前に取り置いていた自己末梢血造血幹細胞を移植することで、高い安全性のもと高用量抗がん剤治療を行うことが可能になります。
当院では使用する抗がん剤の臓器移行性(※4)を勘案して、中枢神経の浸潤(しんじゅん)(※5)リスクが高い患者さんには中枢神経移行性の高い抗がん剤を用いるなどの工夫を行い、さらなる治療成績の向上に努めています。
※4 臓器移行性:薬はその構造によって体内での分布が変化します。多くの抗がん剤は脳や脊髄などへの分布が少ない、すなわち中枢神経移行性が低いことが知られています
※5 浸潤:がんが周りに広がっていくこと
難治性DLBCLに対する細胞免疫治療
初回治療で全く効果が現れなかった場合や、救援療法を行っても完全寛解に至らなかった場合、また完全寛解後1年以内に再発した場合などでは、さらに自己末梢血造血幹細胞移植による追加治療を行っても、再々発するリスクが非常に高いことが知られています。これは、リンパ腫細胞が、多くの抗がん剤に耐性を持つ「多剤耐性」を獲得してしまっているためと考えられています。この、多剤耐性化したリンパ腫を攻撃する治療方法として注目を集めているのが、細胞免疫治療です。
●細胞免疫治療とは
細胞免疫療法には、①患者さんに備わっている抗腫瘍(しゅよう)免疫を活性化する方法と、②患者さんから取ってきた免疫細胞を遺伝子改変して分子標的免疫細胞を作り出し、患者さんに投与する方法に大きく大別されます。これらの治療薬は、従来の抗がん剤とは全く異なる機序(しくみ)で作用するため、多剤耐性化したリンパ腫にも効果が期待できます。
その一方で、従来の抗がん剤とは全く異なる副作用が生じえます。例えば、過剰な免疫応答による危険な合併症(サイトカイン放出症候群)などが出現することが知られており、副作用への適切な対応ができる体制下で投与を行うことが推奨されています。
●当院の体制
当院では、①のタイプの細胞免疫治療薬としてエプコリタマブを使用することが可能です。エプコリタマブは抗腫瘍免疫を担当するT細胞上のCD3タンパクとリンパ腫細胞上のCD20タンパクに同時に結合するよう設計されており、T細胞による抗腫瘍免疫を誘導します。
さらに当院では、②のタイプに相当するキメラ抗原受容体CAR-T療法の導入が準備段階に入りました。CAR-T療法では、患者さん本人から採取したT細胞に遺伝子改変を施し、リンパ腫細胞上の腫瘍特異的細胞表面タンパクを攻撃するCAR-T細胞を作成します。採取されたT細胞の量や質に個人差があることやCAR-T細胞作製に時間がかかること、CAR-T投与後早期に生じうる多様な有害事象など、さまざまなハードルを越えなければいけない治療ですが、その有効性は高く、複数の抗がん剤に治療抵抗性をきたした病態にも効果が期待できます。当院では、大学病院の特性を生かして、集学的サポートが必要となるCAR-T療法対象患者さんを受け入れ、難治性DLBCLの予後の改善に貢献していきたいと考えています。
当科の特色 血液内科
当院では、悪性リンパ腫の疑いがある患者さんに対しては、確定診断前から血液内科が診療にかかわり、外科系診療科と密に連携を取って対応を検討します。リンパ節の生検検査の際などには、早期の診断に役立つ細胞表面マーカー検査や、最善の治療を決定するために必要なリンパ腫の遺伝子解析検査のコーディネートを行っています。
また、DLBCL治療において、合併症を持つ方や高齢者の方に対しても積極的な抗がん化学療法の適応を行っています。合併症を持つ方には入念な臓器機能評価を行い、適切な支持療法を併用します。これによって抗がん化学療法の治療強度を維持し、より高い治療効果を上げることをめざしています。
診療実績
当院では、悪性リンパ腫を年間約100症例、DLBCLについては40症例以上の患者さんを新規に診断・治療しています。また新規薬剤の治験も多く行っており、常に最新の治療を患者さんに提供しています。
更新:2025.12.12
