切らずに治す大動脈瘤、大動脈解離のステントグラフト治療
日本医科大学付属病院
放射線科
東京都文京区千駄木

大動脈瘤、大動脈解離とは?
大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)とは、体の中で最も太くて血流量の多い動脈である大動脈の血管壁が、風船のように膨らんだ状態です。多くの場合は症状がありませんが、大きくなると突然破裂して大量に出血し、命にかかわります。
一方、大動脈解離(だいどうみゃくかいり)とは、大動脈の血管壁に亀裂が入り、そこから血管壁の中に血液が流れ込んで血管壁が裂け、本来の血液の流れ道とは別の新しい流れ道ができた状態です。大動脈解離が生じると、大動脈が破裂したり、大動脈や大動脈から枝分かれする血管の血液の流れが低下・消失し、脳、心臓、腸管、手足などの重要な臓器の機能が急速に低下したりすることで、重大な合併症を引き起こします。
大動脈瘤に対するステントグラフト治療
大動脈瘤は、大動脈の血管壁が破裂した場合や破裂の危険性が高いと判断された場合には、治療を行う必要があります。大動脈瘤の治療としては、以前はお腹(なか)や胸を切って大動脈に到達し、大動脈瘤を切除してから人工の血管に取り替える外科手術という方法しかありませんでした。当然、体にかかる負担は非常に大きく、高齢者や全身の状態が良くない患者さんには行うことができませんでした。
ステントグラフトとは、ステントと呼ばれる金属性の筒を、グラフトと呼ばれる人工血管で覆(おお)ったものです(図1)。ステントグラフトを大動脈瘤の内側に留置することで、血液はステントグラフトの内側だけを流れるようになるため、大動脈瘤への血流は遮断され、破裂による出血を止めたり、破裂を予防したりすることができます(図2)。

ステントグラフトを腹部大動脈内に留置することにより瘤内への血流を遮断します
(画像提供:日本ライフライン株式会社)

足の付け根の動脈から折りたたんだ状態のステントグラフトを挿入し、大動脈瘤の存在する部位まで進めたら展開(拡張)させます
ステントグラフトは、足の付け根の動脈から挿入するため、外科手術のようにお腹や胸を切る必要がなく、傷口は足の付け根の小さな傷口のみであり、体にかかる負担は外科手術よりも圧倒的に少ない治療法です。さらに、以前はステントグラフトを挿入するために足の付け根に数cm程度の創(きず)を開ける必要がありましたが、最近の医療機器の進歩により、数mm程度の針穴のみでの治療が可能となりました。入院期間は1週間程度です。
また、現在ステントグラフトにはさまざまな種類が存在しますが、当院では最新のステントグラフト機種(図1)をいち早く導入しており、治療成績の向上に努めています。
ステントグラフト治療後のエンドリークに対するIVR治療
大動脈瘤に対するステントグラフト治療後に起こり得る合併症として、エンドリークがあります(図3)。エンドリークとは、留置したステントグラフトの外側と大動脈瘤の間に、血液が漏れ出てしまうことです。エンドリークは漏れる経路によってタイプⅠ~Ⅴまで分類されますが、エンドリークが生じた場合には、大動脈瘤内に再び圧力・負荷がかかるようになり、大動脈瘤の増大・破裂のリスクが再燃する可能性があります。そのような場合には、エンドリークを消失させるための追加治療が必要となります。

I:動脈壁とステントグラフト(SG)の接合部分からの血液漏れで瘤内に血液が流れ込むもの
II:大動脈瘤の側枝(肋間動脈,腰動脈,下腸間膜動脈,正中仙骨動脈など)から血液が逆流して瘤内へ流れ込むもの
III:SG-SG 間の接合部分からの瘤内への血液漏れ、SG に開いた穴などから瘤内に血液が流れ込むもの
IV:SG のポロシティ(人工血管基布に開いている小孔)からの血液漏れ(通常は自然に消失するはずのエンドリーク)
V:瘤内に血流が認められないにもかかわらず、瘤が拡大傾向を示すもの
当院では、体の負担の少ないIVR(「こちらのページの当科の特色」を参照)による治療を行っています。IVRは、局所麻酔で針穴程度のサイズの傷口で治療が可能であり、体にかかる負担の少ない治療法です。入院期間は数日程度であり、早期の社会復帰が可能です。
大動脈解離に対するステントグラフト治療
大動脈解離も大動脈瘤と同様に、以前は外科手術しか治療法がありませんでした。しかし、ステントグラフトを用いて、大動脈解離によって生じた大動脈の亀裂を塞(ふさ)ぐことにより、一部の大動脈解離を治療することが可能となりました(図4)。

大動脈解離によって生じた大動脈壁の亀裂(矢印)をステントグラフトを用いて塞ぐことにより、大動脈壁内への血流を遮断します
ステントグラフト治療により、大動脈の破裂を予防・治療したり、大動脈や大動脈から枝分かれする動脈の血液の流れを改善させ、重要な臓器への血流を回復させたりすることができます。また、大動脈解離は発症してから長期間が経過すると、大動脈瘤のように大動脈が膨らみ、破裂することがあります。このような大動脈の拡大を予防するために、拡大する前の大動脈にステントグラフト治療を行うことで、将来的な大動脈の拡大・破裂、外科手術を回避することが可能となります。
更新:2025.12.12
