肝・胆・膵がんと闘う 最新治療とチーム医療で難治性のがんに挑む
四国がんセンター
消化器内科 消化器外科
愛媛県松山市南梅本町甲
肝胆膵(かんたんすい)領域とは肝臓、胆道(胆嚢(たんのう)、胆管、十二指腸乳頭部)、膵臓のことをいいます。この領域に発生したがんを肝胆膵領域がんと呼びます。これには肝臓がんや膵臓がん、胆嚢がん、胆管がん、十二指腸乳頭部がんなどが含まれます。肝胆膵のがんは難治性です。
しかしながら、肝がん発生の要因になる肝炎の治療の進歩により、新たな発症は減少傾向となりました。また、肝臓がんになったとしても分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)や放射線治療といった新しい治療薬の登場や技術の進歩により、治療成績は向上しています。
一方、膵臓がんでも新しい抗がん剤と手術を組み合わせて、予後の改善を目指す治療が始まっています。また、より安全な手術を目指した取り組みも行っています。本項目ではこれらについてお話しします。
肝細胞がんの分子標的治療
「分子標的薬」は、病気の細胞(がん細胞など)の表面にあるたんぱく質や遺伝子をターゲットとして効率よく攻撃する薬です。肝細胞がんは、抗がん剤の効きにくいがんとして知られていましたが、2009年に分子標的薬であるソラフェニブ(一般名)が有効性を証明し、保険承認されました。
長期間、このソラフェニブの次に使用できる薬、またソラフェニブに代わる薬がありませんでしたが、2017年レゴラフェニブ(一般名)が保険承認され、ソラフェニブによる副作用が軽度であった方に対して、2次治療として使用できるようになりました。
さらに2018年には、レンバチニブ(一般名)が切除不能肝細胞がんに対して保険承認されました。この薬はソラフェニブと同等の予後改善効果が確認され、ソラフェニブとともに肝細胞がんに対する初回治療薬として期待されています。
肝細胞がんの治療薬は、現在も多数の開発治験が行われています。すでにいくつかの薬は有効性が報告されており、近い将来、国内でも使用可能になると予想されています。薬の種類が増えると、どの薬をどのタイミングでどのような患者さんに使用するか、薬の使い方や副作用の管理がとても大切になってきます(図1)。
当院では化学療法導入に際して、医師・薬剤師・看護師・栄養士など多職種によるチーム医療を行い、安全で安心な治療を心がけています。
また肝細胞がんの予後改善のためには、新しい薬の開発は不可欠ですが、当院では他施設と共同で新しい薬の開発治験、また既存の薬をより有効に使うための臨床試験を行っています。
肝細胞がんに対する放射線治療(3D-CRT)と定位放射線治療(SRT)
高度に進行した肝細胞がんでは、肝臓の働きが低下していたり、全身状態・合併症のために標準的な治療(手術、RFA、TACE、分子標的薬)が行えない場合が少なくありません。
肝細胞がんに対する放射線治療(3D‐CRT)は、少数例での報告が多く十分なエビデンスはありませんが、他の治療では期待できないような効果が得られることがあります。
当院では、脈管(みゃっかん)(門脈、静脈、胆管)への浸潤(しんじゅん)を伴う肝細胞がんや合併症のために、ほかの標準的な治療ができない患者さんに対して、十分な検討のもと治療選択枝の1つとして放射線治療を行っています。
放射線治療を有効に行うには、がんに対しては十分な照射を行いながら正常な肝臓や他の臓器への照射を減らす工夫が必要です。当院では、肝臓専門医と放射線治療専門医、放射線技師が協力し、安全・効果的に治療を行うことを心がけています。
また最近では、定位放射線治療(SRT)というがんに対し、多方向から放射線を集中させる方法が知られています。これは定位照射、ピンポイント照射とも呼ばれており、肝細胞がんでは「原発巣の直径が5cm以下で転移巣のない場合」に適応があります。通常の放射線治療(3D‐CRT)と比べて治療効果が高く、治療期間が短いなどのメリットがあり、他の局所治療(RFA、TACEなど)が困難な場合に良い適応とされています。
局所治療が難しい部位にがんができてしまった患者さんや、内科的合併症のため他の治療法では危険を伴う場合など、当院では選択枝の1つとして定位放射線治療(SRT)を行っています(図2)。
コンバージョンサージェリーとは
膵臓がんの治療には切除、抗がん剤治療、化学放射線治療などがあげられますが、根治(こんち)の可能性のある治療は切除のみです(膵神経内分泌腫瘍については後述)。しかしながら、膵臓がんは発見するのが難しく、検診を定期的に受けている方でも進行した状態で見つかることはまれではありません。膵臓がん初診時には、造影CT、超音波、MRI、PET‐CTといった画像検査を行います。重要血管への浸潤の有無や、肝、肺、腹膜といった他の臓器への転移の有無を判定します。これらの情報をもとに、①切除可能膵がん、②切除可能境界膵がん、③切除不能膵がんの3つに分けられます。その治療法は「図3」に示したとおりです。
切除可能膵がんの割合は約2割で、その他8割の症例は切除可能境界膵がんや切除不能膵がんと判断され、抗がん剤治療や化学放射線治療が第1選択となります。
近年は抗がん剤治療が進歩しており、最新の化学療法では約4割の方に腫瘍縮小が認められます。初診時に切除不能膵がんと診断されても、治療後に切除可能となり、手術を行う症例もあります。これをコンバージョンサージェリーといいます。すなわち初診時切除不能であっても、抗がん剤や化学放射線治療後に手術をすることで、膵臓がんサバイバーを増やそうという治療法です。
また、切除可能境界膵がんとは、初診時に切除可能かどうか悩ましい膵がん症例ということになります。この場合にも、まず、抗がん剤もしくは化学放射線治療を行い、治療効果を確認した後に手術することになります(図3)。
切除可能膵がんは、手術を行い、術後に抗がん剤治療を実施するのが一般的です。しかし、食道がんのように術前治療を行ってから手術を実施することが、標準治療となる日が訪れるかも知れません。
膵臓がんに対する腫瘍縮小効果のある抗がん剤が登場してから間もないこともあり、コンバージョンサージェリーが本当に有効かどうかについての検証は得られていません。切除可能膵がんに対する術前治療の効果も分かっていません。
しかしながら、膵臓がんサバイバーのほとんどは切除後の症例であり、臨床腫瘍医、放射線治療医と肝胆膵外科医が協力して、膵臓がんの予後向上を目指しています。
膵神経内分泌腫瘍について
膵臓にできる悪性腫瘍の1つに膵神経内分泌腫瘍があります。まれな疾患ではありますが、年々増加傾向にあります。通常の膵臓がんとは違う細胞に由来する腫瘍のため、治療方法が膵臓がんと異なります。
診断は腫瘍から採取した組織を顕微鏡で確認して行います。また、神経内分泌腫瘍の存在を特異的に調べられるオクトレオスキャン(ソマトスタチン受容体シンチグラフィー)という方法が当院でも施行可能となり、診断の難しい症例や治療方法の選択に役立っています。
治療は、切除可能であれば手術が行われますが、切除の難しい症例に対しては、カテーテルを用いた治療(肝動脈塞栓(そくせん)術)や針を刺して腫瘍を焼灼(しょうしゃく)するラジオ波焼灼術、そして薬物療法が行われます。
治療方法は腫瘍の部位や大きさ、個数によって決まります。さらに薬物療法では、腫瘍の悪性度や腫瘍量(肝転移)によって薬の種類が決まります。エベロリムスやスニチニブといった分子標的薬、細胞傷害性抗がん剤(いわゆる普通の抗がん剤)であるストレプトゾシンに加え、2017年にランレオチド(抗ホルモン剤)が保険適用となり、近年、薬の選択肢が増えてきました。また日本でも放射性核種標識ペプチド療法(PRRT)の臨床試験が行われており、今後、治療選択肢が広がると予想されています(表)。
当院では希少疾患である膵神経内分泌腫瘍の診断・治療にも力を入れています。
肝胆膵外科高度技能専門医とは
肝胆膵がんの手術は、その解剖学的な複雑さのために手術の中でも高難易度の手術となるものが多く、外科医としてはやりがいを感じるとともに、非常に気を遣うストレスのかかる手術となります。また、肝胆膵がん領域の手術成績は、症例の多い病院の方が少ない病院と比較して良好との報告もあります。
日本肝胆膵外科学会では、膵頭十二指腸切除術や肝葉切除術などを肝胆膵外科高難易度手術と認定し、これらを安全に施行できる医師を消化器外科専門医の中でも、肝胆膵外科高度技能専門医として認定する事業を2011年より開始しました。きびしい書類審査と、ビデオ審査によって肝胆膵高難易度手術を主体的に、安全に執刀することができると判断された場合に認定されます。2018年現在、全国で185人の認定医師が活躍しており、その在籍病院は、肝胆膵高難易度手術が安全に提供できるという施設の目安になります。当院には、現在1人の肝胆膵外科高度技能専門医が在籍しています。
以上、肝胆膵領域がんの新しい治療などについてお話ししました。私たちは内科医、放射線科医、外科医がチームを組み、個々の患者さんについて検討し、最良の治療が届けられるように日々頑張っています。
更新:2024.10.07