がんってなに?

四国がんセンター

がん予防・疫学研究部 病理科

愛媛県松山市南梅本町甲

がんは危険な病気です

単純化すると、人は細胞の集まりです。細胞は核の中に体の設計図に当たる遺伝子を持っており、それに従って働きが決まります。いろいろな発がん刺激を受けて、それが書き換えられた異常な細胞が勝手に増え続け、生命に危険を及ぼすものを「がん」といいます(図1)。

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図1 がん細胞(左)。異常な遺伝子は青紫色の核と呼ばれる部分にあります。正常な胃粘膜(中)では、さまざまな種類の細胞が協力して働いていますが、胃がん(右)になるとがんになった細胞が増生します

がんの3大特性は不死・浸潤・転移です

正常な細胞は必要なだけ増えると増殖を止めますが、がん細胞は無限に増えることができます。この能力を得ることを「不死」化といいます。これががんの最大の特徴です(図2)。

チャート
図2 がん化チャート

最初のうち、がん細胞は発生した場所でしか生きていけません。「前がん状態」「異形成」「上皮内癌」などと呼ばれる状態です。多くのがんで10年以上この状態を保ちますが、やがてさらなる遺伝子異常が加わって、周囲に広がることができるようになります。この能力を「浸潤(しんじゅん)」と呼びます。がんは浸潤することによって、臓器を壊し、痛み・出血・通過障害など、さまざまな症状を引き起こします。この時点で正式に「がん」と呼ばれるようになります。さらに異常が集積すると、離れた別の臓器に移って増えるという最も危険な「転移」能力を獲得します。がんが転移すると、手術や放射線などの局所療法で駆逐することができないため、治療法が限られてしまいます。

がんが進行すると重要な臓器を破壊することや、がん細胞自身の出す化学物質の影響から、食欲不振、体重減少や倦怠感(けんたいかん)などが引き起こされ、日常生活に重大な悪影響を及ぼします。これを悪液質といいます。

がんは遺伝子の暴走
しかし、それだけで説明できるわけではありません

がん細胞が不死になるには、分裂して増えることを担当する〝遺伝子の過剰な働き〞と、異常な増殖を監視し抑制する〝遺伝子が働かなくなること〞の両方が必要です。浸潤や転移に関係する遺伝子も知られています。がんに関係する遺伝子を一般に「がん遺伝子」といいます。細胞は遺伝子に生じた異常を修復したり、遺伝子に異常が生じた細胞を死なせたりして、がん化を抑える仕組みを担当する「がん抑制遺伝子」と呼ばれる遺伝子を持っています。がん抑制遺伝子が無効化されると異常な細胞を排除できません。これらの遺伝子の異常が遺伝的に引き継がれたため、生まれつきがんになりやすい人もいます(「家族性腫瘍相談室」参照)。

このように細胞ががん化するには多数の遺伝子異常が必要です。そのうち、そのがんにとって特に重要な異常遺伝子をドライバー遺伝子と呼びます。ドライバー遺伝子は、がんの急所でもあるので、分子標的薬という抗がん剤の攻撃目標となります(「個別化医療を目指して」参照)。

しかし、遺伝子の異常だけではがん化には不十分です。一旦、がん化しても大部分のがん細胞は体に備わった強力な免疫反応で初期に駆除されます。免疫から逃れる手段を持ったがんだけが成長できるのです。がん細胞が免疫を逃れる手段を阻害してがんを制御する免疫療法が、最近有力な治療として登場してきました。一方、一部のがんでは、ホルモンなど体内の環境や持続する炎症が、がんの発生を援助することも知られています。

がんにはいろいろな名前があります

漢字の「癌」は「上皮」由来のがんを指します。上皮とは、並んで配列し、臓器の表面を覆う細胞の集まりです。直接外部からの発がん刺激を受けやすいので、上皮由来の癌が、がんのほとんどを占めます。

一方、上皮以外の体を支える組織、骨・脂肪・血管などを作る細胞由来のがんは「肉腫(にくしゅ)」と呼ばれます。ひらがなの「がん」は、癌・肉腫とそれ以外のものも含めて、命にかかわる危険な腫瘍(しゅよう)の総称として使われます。

がんは発生した臓器に基づく名前で呼ばれます。例えば、肺では肺がん、胃では胃がんです。発生した臓器ごとに治療方針がまとめられるので、重要な名称です。

また、がんは細胞の由来に基づく、組織型と呼ばれる名前もつけられます。腺上皮由来なら腺癌、扁平(へんぺい)上皮由来なら扁平上皮癌、平滑筋由来なら平滑筋肉腫などです。細胞の由来により、がんとしての性質、治療の効き目などに差があるので、これも重要な名前です。このほかに、最近では発がんの由来となる遺伝子異常が分かってきたので、遺伝子異常に基づく命名をされたがんもあります。

がんは社会的な問題でもあります

がんは個人の生活に大きな変化をもたらすだけではなく、社会的な影響も大きな病気です。がん研究には莫大な研究費がつぎ込まれています。その過程において発見されたがん遺伝子などに関する知識は、私たちの人の体に対する理解を大きく広げてきました。

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一方、がんが投げかけてくる倫理的な問題にも私たちは向き合う必要があります。高額で劇的に有効な治療薬により生じるお金と命の問題、がんの遺伝情報の取扱い、科学的根拠に基づかない治療法との対峙など、さまざまな問題が挙げられます。

更新:2022.03.10