がん治療の明日 患者さんと家族を専門家によるチーム医療で支えていきます

四国がんセンター

呼吸器外科

愛媛県松山市南梅本町甲

がん診療の今日

現在、国は「がん予防」「がん医療の充実」「がんとの共生(がんになっても安心して暮らせる社会)」をがん対策の3つの柱として取り組んでいます。

まずは「がん予防」についてですが、受動喫煙を含む禁煙、過剰飲酒を控えること、適度な運動で肥満防止、食生活の見直し、感染予防などにより、がんの30〜50%は予防できるといわれています。これらについては、不十分ながらも対策が進みつつあります。喫煙率は年々下がっていますし、受動喫煙を防止する法律や条令がまもなく施行されます。また、国や各自治体のがん対策推進計画にも、がん予防につながる対策が盛り込まれています。すでに胃がんや肝臓がんはそれぞれのがん予防策で減少傾向にあります。子宮頸(けい)がん予防のHPVワクチンは現在のところ、科学的に妥当とはいえない残念な理由で接種が広がっていませんが、これも再開されれば、次の世代のHPV関連がんを大幅に減らすことになるでしょう。

がんになりやすい遺伝的要因も一部明らかになってきており、そのような要因を持つ方に、綿密な検診を行い早期発見につなげる計画も始まりました。当院では、2018年8月から、家族性腫瘍(しゅよう)の心配のある方々のために「サーベイランス外来」を設け、必要に応じて検査や検診手段をご案内するシステムを開始しています。

「がん医療の充実」では、ロボットなどの革新的な工学を応用した手術や、分子標的薬など効果的にがんと闘える抗がん剤が次々と登場しています。中でもゲノム医療の時代はすぐそこまで来ています。さらに、近年広がりつつあるのが「チーム医療」の考え方です。がん医療では、がんに罹患した患者さん本人だけでなく、家族も悩んだり心配されたり、心身のみならず社会生活にも支障を生じてしまうことも多くあります。

当院では、このような問題に向き合う患者さんやその家族のために、医師や看護師だけでなく薬剤師、リハビリ、緩和ケアといったあらゆる医療スタッフが連携しながら、患者さんと家族をチームで支援する体制を取っています。チームの中心は患者さん自身で、主治医は助言者として、各専門家の意見を取り入れ、患者さんにとってトータルで最良の医療となるように案内やアドバイスをしています。

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写真1 患者さんを中心としたチーム医療(患者さんを中心に各医療スタッフが協力し合います)

がん診療の近未来

今後、がんで亡くなる方の数は減るでしょう。遺伝子解析と同じような手法で、少量の血液検査でがんの検診を可能にする研究も進められています。その結果、現在、がんがあるかないかだけではなく、将来の発がんリスクまで、遺伝子検査だけである程度正確に予想できる時代は遠くないと思われます。

また、AIの進歩はがん医療にも影響を与えるでしょう。病理診断や画像診断の精度はAIの関与により、まもなく大きく向上します。ロボット化された治療機械によって、人の技能を超えた手術も可能になります。

がんの性状と遺伝子変異の関係に関する知識がさらに深まると、治療薬の選択にもAIによる補助が欠かせなくなるでしょう。こうして近未来、がんの生存率は改善するので、「がんになっても安心して暮らせる社会」がますます重要になります。

がん診療の明日とがん専門病院

近未来のがん予防やがん診療は、どこかで発明されればすぐに住民まで届くというものではありません。本書でも多くの新しい治療薬や治療法を説明していますが、新しい療法導入に際しては、副作用や、心理的な状況、倫理的問題などが発生します。医師・看護師だけではなく、経験のある多種の人材があってこそ始められます。また、近未来の「がんになっても安心して暮らせる社会」はどこかで開発されるものではなく、地域でつくらなければなりません。これは1病院が主体となってつくれるものではありませんが、そのためのモデル施設として、当院では「患者・家族総合支援センター」を設置しています。

まだまだがんの治療では、抱える問題は多岐にわたり、乗り越えなければならない問題がいくつもあります。これらの問題を1つでも減らすとともに、近未来のがん医療を患者さんの今日のがん治療にするため、患者さんや家族の希望も大切にしながら、私たちは「がん専門家」としての英知を結集して、今後も重要な役割を果たしていきたいと考えています。

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写真2 四国がんセンター

更新:2022.03.08