死亡事故の原因にもなり得る「ヒートショック」。原因と予防法を解説します!
メディカルブレイン編集部

温か〜いお風呂は、寒い時期の楽しみの一つ。しかし、そんなリラックスタイムが一歩間違えば命取りになりかねない「ヒートショック」をご存じですか?
ヒートショックは特に冬場に起こりやすく、その発生件数は交通事故よりも多いという、想像以上に身近な現象なんです。原因や予防法を知って理解を深めることで、ヒートショック防止に役立てましょう。
ヒートショックとはどういう現象?
ヒートショックとは、急激な温度差による血圧の変動により、心臓や血管、脳に関連する疾患を誘発してしまう現象のことです。
誘発される疾患の主な具体例としては、脳内出血や大動脈解離、心筋梗塞に脳梗塞、そして不整脈などが挙げられます。
また、実は交通事故よりも死亡者数が多いのも大きな特徴です。2021年の厚生労働省人口動態統計によると、高齢者の浴槽内での不慮の溺死・溺水による死亡者数は4,750人。交通事故による死亡者数2,150人のおよそ2倍(※)の数に上ります。
発生時期としては11月から2月ごろにかけての冬場が多く、場所としてはお風呂やトイレ、廊下など、居住空間との温度差が大きくなりやすい環境下で発生しやすくなっています。
「ヒートショック」という言葉は医学的な専門用語ではないものの、上記のような疾患を誘発する現象を示す医療用語として広く知られています。
※出典:消費者庁「無理せず対策 高齢者の不慮の事故」(2022年12月)
ヒートショックが起こるメカニズム
ヒートショックが起こるメカニズムは、下のイラストの通りです。
人間の体は、暖かい場所から寒い場所へ移動すると、体の熱を逃さないように全身の血管を収縮させるため、血圧が上昇します。また、寒い場所から暖かい場所へ移動すると、今度は血管を拡張させ、血圧が低下します。
入浴時を例に挙げますと、暖かい室内から寒い脱衣所、そして同様に寒い浴室で過ごすことで血管が収縮、血圧が上昇した状態となります。その状態から急に熱い浴槽に浸かることで一気に血管が広がり血圧が下がります。この血圧変動が、ヒートショック誘発につながるメカニズムです。
急激な温度変化によって血圧の上昇と低下を繰り返すことが、血管や脳、心臓などへの大きな負担となるのです。
ヒートショックになりやすい人や状況
体温調節機能が弱っている高齢者や、生活習慣病によって血管の柔軟性が低下している人は血圧の変動幅が大きくなりやすい傾向にあるため、特に注意が必要です。
下の図は、ヒートショックを引き起こしやすい人や状況をまとめたチェックリストです。
- 高齢者(65歳以上)
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症・動脈硬化など生活習慣病がある
- 肥満
- 無呼吸症候群や不整脈がある
- 熱い湯や長風呂を好む
- 飲酒後に入浴する習慣がある
- 浴室やトイレが寒く、暖房設備がない
一つでも該当する人は、以下で紹介する予防法を確認しておきましょう。
ヒートショックの予防法
ヒートショックを予防するポイントは、血圧の乱高下を防ぐことです。温度差を小さくし、身体的負荷の少ない入浴方法を心がけることで、未然に防ぐことができます。
脱衣所と浴室を温めておく
お風呂を沸かすときに暖房器具などを活用しましょう。暖房設備がない場合は、浴槽に湯をためる際にシャワーから給湯したり、浴槽の湯が沸いたら湯をかき混ぜて蒸気を立て、浴槽の蓋を外したりしておくなど、できるだけ浴室内を温めて寒暖差が少なくなるような工夫を。また、湯船に浸かる前にシャワーやかけ湯で事前に体を温めるのも効果的です。心臓から遠い足先の方から肩くらいまで、少しずつ湯をかけながら温度に体を慣らすと、血圧の急激な変動を防げます。
お湯の温度はやや低めに、長湯は避ける
お湯の温度は38〜40度程度、入浴時間は10分以下を目安にするのがおすすめです。そもそも、42度のお湯に10分間浸かると体温が38度近くになり、ヒートショックのみならず高体温などによる意識障害を起こすリスクが上がってしまいます。
入浴前後に十分な水分補給を
入浴前後には、コップ1杯程度の水を飲むようにしましょう。また、冷たい水ではなく常温の水がベターです。
食後すぐ、飲酒後、服薬直後の入浴を避ける
特に高齢者は、食後に血圧が下がりすぎてしまう食後低血圧になりやすい傾向があります。食後すぐや、飲酒時も一時的に血圧が下がるため、飲酒後にアルコールが抜けるまでは入浴を控えましょう。また、体調の悪い時や血圧が高い時、精神安定剤、睡眠薬などの服用後も意識障害の危険性が高まるため、入浴は避けましょう。
お風呂から出る時はゆっくりと
入浴中は体に水圧がかかり、血管も圧迫されています。その状態から急に立ち上がってしまうと、水圧がなくなることで圧迫されていた血管が一気に拡張。脳に行く血液が減少して貧血に近い状態になり、ひどい時には意識を失ってしまうことがあります。浴槽から立ち上がる時にめまいや立ちくらみを起こしたことがある場合は、特に注意が必要です。
また、高齢者がいる場合は浴室内に手すりを設置したり、家族間で互いに注意を払ったりするなどといった対策も大切です。1人暮らしの場合は、携帯電話を近くに置くなどして、外部とすぐ連絡できるような工夫をしておきましょう。
お風呂で倒れている人を見かけたら?
もし浴室内で倒れていたり、浴槽内でぐったりしていたり、溺れたりしている人を見かけた場合は、慌てずに以下の応急処置を実施しましょう。
- 直ちに浴槽の栓を抜く
- もし周りに人がいれば、大声による呼びかけなどで人を集める
- 入浴者を浴槽から救出。困難な場合は、蓋などに上半身を乗せるなど、入浴者が沈まないように固定する
- 入浴者の安全を確保したら、すぐに119番
- (浴槽から救出できた場合は)両肩を叩きながら声を掛け、反応を確認する。反応がない場合は呼吸を確認する
- (呼吸がない場合は)胸骨圧迫を開始、救急車の到着まで続ける。人工呼吸ができるようであれば、胸骨圧迫30回、人工呼吸2回を繰り返す
以下の、救急受診についての記事も参考になります。
正しい知識を身に付けて、寒い冬も安全かつ健康に乗り切りましょう!
更新:2025.01.23