膝関節軟膏損傷とその治療法を教えてください

愛知医科大学病院

整形外科

愛知県長久手市岩作雁又

軟骨ってどんなもの?

軟骨というと、骨の軟らかいものが想像されますが、実は軟骨と骨は全く性質や働きが違います。軟骨は膝(ひざ)や肘(ひじ)など関節の骨の表面を薄く覆っていて、関節の動きを滑らかにする役割を担っています。関節の軟骨は、硬くて弾力性があり、なおかつ滑らかな軟骨(硝子(しょうし)軟骨といいます)でできており、その滑らかさはアイススケートで氷上を滑る際の10倍ともいわれています。膝関節(しつかんせつ)の表面を覆っている軟骨は、膝関節の動きを滑らかにしたり、クッションの役目を担ったりすることで骨と骨がぶつからないように守る役割をしています。

激しいスポーツの繰り返しやけがなどの衝撃により軟骨が損傷すると、自然に治ることは難しいとされています。骨折や皮膚の傷は治るのに、なぜ軟骨は治らないのでしょう。それは、軟骨組織には血管がないからです。手を切ったりすると誰しも出血が起こります。血液の中には、傷を治すのに必要なさまざまな細胞が含まれている上に、細胞を増やすための栄養(成長因子あるいは増殖因子と呼ばれます)も含まれているのです。これらの成分が傷を治す働きをしています。しかし、軟骨組織にはもともと血管がありません。したがって、軟骨組織が損傷しても、それを治すための細胞も、細胞を増やすための栄養も供給されないので、軟骨は自然治癒(ちゆ)しないのです。

損傷した軟骨を治すには、どんな治療法がありますか?

損傷した軟骨の治療法には、主に次の3つがあります。

1.骨髄(こつずい)刺激法(マイクロフラクチャー、ドリリング)

軟骨損傷部の骨をあえて傷つけることで軟骨組織下の骨髄を刺激し、軟骨様組織の再生を促進する方法です。再生される軟骨は、正常な軟骨のような硝子軟骨ではなく、線維性軟骨が中心となります。

2.骨軟骨柱移植術(モザイクプラスティ)

健常な膝関節組織から自分の軟骨組織を骨軟骨柱として採取し、これを損傷部に移植する方法です。正常な軟骨を円柱状に採取しますので採取できる範囲に限りがあります。

1、2はいずれも比較的狭い範囲の軟骨損傷に有効な治療法です。

3.自家培養軟骨移植術

軟骨損傷の治療法の中で、近年注目されている最新の治療です。元来、完全に修復することが不可能であった広範囲の軟骨損傷に対して治療が可能です。自家培養軟骨移植術は、患者さん自身の細胞を使うので、拒絶反応が極めて少ないことや、少しの軟骨から細胞を増やすことができるので、広い範囲の軟骨が欠けた場合にはより有効であることなどのメリットがあり、治療後は膝の痛みが和らぐことが分かっています。

現在、国内の保険医療の対象となっているのは、「外傷性軟骨欠損症」または「離断性骨軟骨炎」で、欠けた軟骨の面積が4㎠以上の患者さんです。

自家培養軟骨移植術について教えてください

自然に治ることが難しい軟骨組織ですが、軟骨細胞には増殖する能力があります。そこで、患者さんの軟骨組織の一部を取り出し、軟骨細胞が増殖できるような環境を整えて作られたのが自家培養軟骨です。そして、軟骨欠損部に増殖した自家培養軟骨を移植することで修復が期待されます。現在国内では、4㎠以上の広範囲な軟骨欠損に対してこの方法が適応とされています。まず関節鏡を用いて少量の正常な軟骨を採取し、専門の培養施設でゲル状のアテロコラーゲンという特殊なたんぱく質と混合して立体的な形に成型した後、培養して細胞の数を増やします。その後成型されシート状になった自家培養軟骨を軟骨欠損部に移植します(写真1、2、3)。前述したように、少しの軟骨細胞を増殖するので、広範囲の軟骨障害に行える方法です。治療後は、もとの軟骨に近い組織で修復されることが分かっています。この手術は登録認可された施設でのみ可能で、全国で約260施設あり、当院もその1つです。

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写真1 欠損した軟骨
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写真2 自家培養軟骨を軟骨欠損部に移植したところ
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写真3 移植した軟骨の上から骨膜を縫合して蓋(ふた)をしたところ

自家培養軟骨移植術の流れ

まずは外来にて、使用するアテロコラーゲンにアレルギーがないか、皮内テストや血液検査を行います。手術は、2回に分けて行います。1回目は、関節鏡を用いて軟骨欠損部の大きさを測定します。4㎠以上の軟骨欠損であれば、引き続き正常軟骨を採取し、専門の施設で4週間かけて軟骨細胞を培養します。4週間後に2回目を行い、培養した軟骨細胞を移植します。手術の後、1~2週間は装具による固定を行い、その後、可動域訓練や部分荷重訓練を開始します。全荷重歩行が可能となるのは、2回目の手術からおおよそ6週間後です。

更新:2022.03.14