脳腫瘍の手術について教えてください

愛知医科大学病院

脳神経外科

愛知県長久手市岩作雁又

脳腫瘍の手術は必要ですか?

脳腫瘍(のうしゅよう)には、脳の中で発生する脳実質内腫瘍(図1-①)のほかに、脳を覆う膜から発生する腫瘍やホルモン分泌を行う下垂体からできる腫瘍(脳実質外腫瘍、図1-②)なども含まれます。脳を支えている骨の周囲にできる腫瘍は、特に頭蓋底(ずがいてい)腫瘍(図1-③)と呼ばれることもあります。

小さな腫瘍で症状もなく、良性腫瘍が疑われる場合には手術を行わずに定期的に検査を行いながら様子をみていくことが多くなります。一方、大きな腫瘍や、脳を圧迫したりホルモンを分泌したりして症状が出る場合には、早期の治療が必要で、今後短期間のうちに症状が出ると考えられる場合にも治療が必要となります。重要な神経の近くに腫瘍ができた場合や、悪性腫瘍が疑われる場合には、小さな腫瘍でも手術をお勧めすることがあります。手術では腫瘍を取るだけではなく、取り出した腫瘍を検査することで腫瘍の種類を調べます。腫瘍の種類が判明すれば、手術後に行う最も良い治療法が選択できるようになります。患者さんの年齢や健康状態も考慮しながら治療方針を相談していきます。

脳腫瘍以外にも、鼻や耳の周辺にできる腫瘍(頭頸部(とうけいぶ)腫瘍、図1-④)が脳の近くまで成長することがあり、そのような場合には当科も耳鼻咽喉(いんこう)科・形成外科とともに治療チームに加わり、診療科の垣根を越えて、より安全な手術を行っています(図1、2)。

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図1 当科では各種脳腫瘍の治療のほか、頭頸部腫瘍の治療も行います
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図2 頭頸部腫瘍に対する治療チームの一例。当院では診療科の垣根を越えて、より安全な治療を目指します

脳腫瘍の手術は安全ですか?

残念ながら100%安全とはいえません。しかし、脳科学の進歩や医療機器、手術技術、麻酔技術の進歩により安全性は大きく向上しています。脳の各部位の働きと病気の位置をよく検討して、手術後の後遺症が少なくなるように、手術の計画が立てられます(図3)。手術ナビゲーションシステムにより、腫瘍の位置がミリ単位で確認でき、計画通りの手術を行うことが可能となってきました。

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図3 脳科学の進歩により脳の各部位の機能が明らかとなり、より安全な手術計画が立てられるようになってきました

また、最新の手術顕微鏡により、脳の細かな観察だけではなく、手術中に腫瘍や血管の位置を蛍光で観察可能となりました。これら観察技術の進歩によって、より繊細で安全な手術が可能となっています。腫瘍ができた場所によっては内視鏡を用いたり、筒状の道具の中から手術を行ったりすることで、脳を守りながら、体にも負担の少ない手術を行っています(図4)。

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図4 脳の深部にできた腫瘍に対しては、筒状の器具を用いて脳を守りながら手術を行います

複雑な腫瘍に対しては、顕微鏡と内視鏡を同時に使用する手術も行っています(図5)。先述のように、耳鼻咽喉科や形成外科など、必要に応じて他科の専門家の協力も得られて、より安全な手術を行えることは当院の強みです。

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図5 顕微鏡と内視鏡を同時に使用する手術も可能となっており、複雑な腫瘍にも対応可能です

また当院では、術中に患者さんの運動機能や感覚機能を観察する電気生理モニタリングを多数行うことにより、麻痺(まひ)などの合併症を予防・軽減するよう努めています。手術後は、手術室に隣接した集中治療室で治療を行い、術後の安全性にも配慮しています。

手術以外の治療法にはどんなものがありますか?

手術以外の治療法として、放射線治療と薬物治療が挙げられます。放射線や薬にもさまざまな種類があり、腫瘍の種類によって使う放射線や薬の種類・量が異なります。放射線や薬が全く効かない腫瘍もありますし、逆に放射線や薬が非常に効きやすい腫瘍もあります。放射線や薬も体に副作用を生じてしまう可能性があるので、腫瘍の種類に応じて、最適なものを選択する必要があります。

新しい放射線や薬の開発は今でも進んでおり、より安全で効果の高い治療について、専門家と相談することが大切です。

脳腫瘍の症状について

脳腫瘍の症状は大きく3種類に分けられます。

①脳は頭蓋骨で包まれるように守られていますが、脳腫瘍が大きくなると頭蓋骨の内側は、まるで満員電車の中のように圧力が高まってしまいます。こうして生じるのが「頭蓋内圧亢進症状」で、頭痛や吐き気・視力障害を生じます。
②脳腫瘍が脳の一部を圧迫して生じるのは「局所症状」と呼ばれ、手足の麻痺やしびれ・言葉の障害・ホルモン分泌障害など、腫瘍のできる場所によって症状はさまざまです。
③脳腫瘍が原因でてんかん発作を生じることがあります。てんかん発作の多くは意識を失ったり、手足などにけいれんを引き起こしたりします。

更新:2022.03.14