難聴を改善させる最新の手術治療を教えてください

愛知医科大学病院

耳鼻咽喉科

愛知県長久手市岩作雁又

手術で聞こえを良くできるのは、どんな疾患ですか?

難聴は、外耳道(がいじどう)からアブミ骨までの部位からの原因による伝音難聴とそれ以降の部位からの原因による感音難聴および両者が混じった混合難聴に分類されます(図1)。これらの難聴の鑑別は、一般の耳鼻咽喉科(いんこうか)で行っている聴力検査で可能ですが、判別困難な場合もあります。

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図1 音は、外耳道から鼓膜、ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨(ここまでの部位が原因による難聴を伝音難聴、これ以降が原因による難聴を感音難聴といいます)、内耳、内耳神経から中枢に伝わっていきます

もし、伝音難聴あるいは混合難聴ならば手術で聴力を改善できる可能性があります。具体的な疾患として、慢性穿孔性中耳炎(せんこうせいちゅうじえん)(鼓膜に穴があいて耳だれが出る)、後天性真珠腫(しんじゅしゅ)性中耳炎(鼓膜が内陥〈へこんでいる〉あるいは穿孔して鼓膜上の皮膚が中耳内に入り、耳垢(みみあか)のようなものを大量に出して耳だれが出る)があります。これらは、鼓膜が変形あるいは穿孔しているので、一般の耳鼻咽喉科でも診断は比較的容易です。注意しなければいけないのは、鼓膜が一見正常でも伝音難聴をきたす疾患があることです。

小児においては、耳小骨(じしょうこつ)(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨を指します)奇形、先天性真珠腫(生まれついて中耳に皮膚組織が入り増殖する)、成人においては耳硬化症(じこうかしょう)(後天的にアブミ骨周囲に骨病変を生じてアブミ骨を固める)が代表的です。これらの疾患は、鼓膜が正常なために感音難聴と間違えやすく注意が必要です。感音難聴と鑑別するためには、より精密な聴覚検査およびCTなどの画像診察が必要です。感音難聴は、後述する人工聴覚器使用のための手術以外は手術が不可能ですが、前述のように鼓膜が正常であっても伝音難聴を呈する疾患は手術で聴力を改善することが可能です。

聞こえを良くできる手術法は、どんなものがありますか?

聞こえを改善できる手術法として、鼓膜形成術、鼓室形成術、アブミ骨手術があります。鼓膜形成術は、鼓膜穿孔のある耳に対して外耳道からアプローチして、皮下組織を用いて鼓膜を作製する手術です。慢性穿孔性中耳炎や真珠腫ならば全身麻酔下に、耳の後ろを切開します。耳小骨奇形や耳硬化症なら耳の中を切開し、いずれの手術も手術顕微鏡を用いて行います(写真)。病変部を除去するために、顕微鏡で見えない部分は最新の内視鏡を用いてモニターで観察しながら行います。

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写真 手術室において、最新の手術顕微鏡、高解像度のモニターを用いて全スタッフが手術情報を共有し、最良の手術環境にて安全、確実に手術を行っています

鼓室形成術は、病変に応じてツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨上部構造を除去し、代用耳小骨(残存耳小骨、耳介軟骨、人工耳小骨で代用します)で鼓膜と奥の耳小骨残存部をつなぎます。聴力改善は80%程度を期待できます。

アブミ骨手術は、アブミ骨が周りの骨とかたまっているときに、アブミ骨を摘出して人工アブミ骨を挿入する手術です。聴力改善は90%程度を期待できます。

人工聴覚器を使うと、よく聞こえるようになりますか?

人工聴覚器には、埋め込み型補聴器、人工中耳、人工内耳(ないじ)があります。手術で改善困難な難聴には補聴器装用を勧めますが、自分の声が響く、耳だれが出やすいなどの装用時の訴えが時にあります。

埋め込み型補聴器として、当科ではBAHA(骨固定型補聴器)を使用しています(図2左)。BAHAは、側頭部に手術で端子(②)を埋め込んで頭蓋骨(ずがいこつ)を振動させて、外耳道や中耳を経ずに内耳に直接音を伝えるシステムです。耳だれの心配がなく音もクリアに聞こえる利点があります。ただし、あまり出力を高くできないため、高度の感音難聴の人には適応しません。

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図2 左はBAHA(骨固定型補聴器)、右は人工内耳を示します。番号とアルファベットは音が進んでいく経路を示します

補聴器でも聞こえない人に対しては人工内耳が適応となります(図2右)。人工内耳は、音を電気信号に変えて(A)、送信コイル(B)を通してその電気信号を電波で埋め込んだレシーバー(C)に送り、蝸牛(かぎゅう)に挿入した電極(D)で感覚細胞を経ずに直接内耳神経に電気信号を送り音感を得る方法です。得られた音は以前聞いていた音とは全く異質のため、音をことばとして理解するためにリハビリが必要です。

近年、この人工内耳の機器の進歩は著しく、当科の成績では、補聴器単独ではことばが聞き取れなかった80%以上の方が人工内耳を装着してから、音声のみで日常会話などを50%以上理解できています。3級以上の身体障害者の認定を受けていれば、この治療をほとんど無料で受けることができます。

聴力改善を実現するために

当科では、耳鼻咽喉科領域すべての疾患を取り扱っていますが、特に耳科領域では聴力改善手術に定評があり、2016年の鼓室形成術およびアブミ骨手術症例数は、東海地方でトップの実績を誇っています。また、人工聴覚器にも力をそそいでおり、鼓室形成術やアブミ骨手術で改善できなかった症例や感音難聴には、補聴器のフィッティング(調整)とともに、人工中耳や人工内耳の導入も積極的に行っています。

更新:2022.03.14