パーキンソン病について教えてください

愛知医科大学病院

神経内科 脳卒中センター

愛知県長久手市岩作雁又

パーキンソン病はどんな病気ですか?

パーキンソン病は、ドパミンという化学物質を産生して情報伝達に用いている神経の数が減ることにより、ドパミンが脳内で不足し、これに由来するさまざまな症状が現れる病気です。明確な原因はまだ解明されておらず、国から難病の指定を受けています。50歳以降の方に発症することが多く、国内では1000人に1人くらいの割合で患者さんがいます。

パーキンソン病には、どんな症状がありますか?

パーキンソン病は、手足の震え、動きの鈍さ・少なさ、筋肉のこわばり、転びやすいなどの症状をきたします。手足の震えは静止時振戦(しんせん)といい、リラックスしているときに目立ちます。また、動きの鈍さ・少なさ、筋肉のこわばりは、表情の乏しさや書字の小ささ(写真1)、歩きにくさなどとなって現れます(動作緩慢(どうさかんまん)・寡動(かどう)・筋強剛(きんきょうごう))。

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写真1 パーキンソン病の患者さんに字を書いてもらいました。だんだんと字が小さくなっていくことが分かります

これらの症状は多くの場合、体の左右どちらか片方から始まり、徐々に反対側に広がります。また、このような動きにかかわる症状をきたす前に、便秘、頻尿(ひんにょう)など自律神経にかかわる症状、あるいは抑うつなど精神にかかわる症状が先行することも知られています。

このような症状に気づいたら、かかりつけ医の先生に相談の上、当科の受診をお勧めします。

パーキンソン病と似た症状を起こす病気があるのですか?

パーキンソン病と似たような運動にかかわる症状は、さまざまな病気で起こります。進行性核上性麻痺(かくじょうせいまひ)や多系統萎縮症(たけいとういしゅくしょう)などの神経難病、脳の血流障害(脳血管性パーキンソン症候群)、薬の副作用(薬剤性パーキンソン症候群)などです(これらはパーキンソン症候群とも総称されます)。パーキンソン病とパーキンソン症候群は全く異なる病気です。また、例えば本態性振戦という高齢者でよくみられる震えは、パーキンソン病の振戦と違ってコップを持つ、字を書くなどの動作により震えが強くなります。したがって、症状の原因となる病気を的確に見極めるためには、神経内科医が患者さんから話を詳しく聴いた上で専門的な診察をし、そして適切に精密検査を行うことが必要です。場合によっては何度も通院して、やっと診断に至るということも珍しくありません。

当科では、高性能な最新検査を駆使し(写真2)、より正確な診断を可能にすべく全医局員が一丸となって、日夜、診療に従事しています(写真3)。

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写真2 大脳においてドパミン神経が減少していることを間接的に証明することができる、最新の画像検査の写真です。これは、パーキンソン病患者さんの結果で、健常の人では明るい色の部分が左右対象の整った勾まがたま玉の形になります
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写真3 神経内科のスタッフ

パーキンソン病の治療には、どのようなものがありますか?

ドパミンを補充するため、体の中でドパミンに代わるドーパという薬や、ドパミンと同じ作用を持つ薬、ドパミンの効果を長続きさせるような薬の投与が行われます。これらの薬には、飲み薬のほかに貼り薬や注射薬があります。発症当初は安定して薬の効果を実感できることが多いのですが、病気の進行や薬の長期使用・増量により、さまざまなトラブルが起こります。これには、ウェアリングオフ現象(薬の持続時間が短くなり、効果が切れてくる)や、オンオフ現象(薬を飲んだ時間に関係なく、症状が良くなったり、悪くなったりする)、薬が効き過ぎて体が勝手に動いてしまうジスキネジア、そして幻覚、認知症などがあり、神経内科医による細やかな診察と治療調整が必要となってきます。また、飲み薬だけでの治療が難しい場合、限られた患者さんですが、脳内に電極を設置する外科治療や、胃腸にドパミンを持続的に投与するチューブを造設する手術を検討することもあります。その一方で、ストレッチやリハビリテーションなどの運動療法も有効です。適度な運動習慣を身につけることは、症状の安定化・改善をもたらし、気分を健やかにする効果があります。

当科では、日々の診療の中で、患者さんと十分なコミュニケーションをとりつつ、適宜、最良のパーキンソン病治療を提供しています。

神経内科とは?

体の隅々に張り巡らされた神経系をおかす病気はさまざまで、脳卒中、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)(ALS)、認知症、脳炎、てんかん、多発性硬化症などがあります。これらは麻痺、喋(しゃべ)りにくさ、物忘れ、頭痛、けいれん、しびれ感など、さまざまな症状をきたし、患者さんが神経内科を受診するきっかけとなります。

神経疾患の診断には、話を詳しく聴くこと(問診)に加えて専門的診察が必要であり、診察に1時間以上かかることもあります。正しい診断がより適切な治療を導き、それが患者さんの幸せ、さらには健全な社会への貢献につながる、これこそが、神経内科医が大切にしていることなのです。

更新:2022.03.14