国内初の診療科「痛みセンター」ー難治性の慢性病に集学的治療で取り組む

愛知医科大学病院

痛みセンター

愛知県長久手市岩作雁又

痛い場所以外に存在する痛みの要因

体のあちこちの痛みが長引いている場合、①膝や腰などの組織の直接的な「傷害」「経年的な変性」や「筋萎縮」、あるいはそれに伴う「姿勢不良」などの局所的な要因②「痛み」を感じた神経が痛みを記憶してしまい、少しの刺激などでも痛みをとらえて周りの神経や脳へ伝達してしまう「痛み伝達神経の機能変化」③家庭や職場など、患者さん本人を取り巻く環境やストレスなどが関与して心理的な苦痛を発生させる「精神・心理的メカニズム」、これらが複雑に絡み合って起こっていると考えられます。このように治療に要する時間を超えても続く痛みは、「慢性痛」と定義されています。

痛みに対する集学的診療

当センターでは、腰痛や肩こり、膝痛、神経痛、術後痛など、さまざまな痛みを持つ患者さんが受診します。初診では、事前に問診をとり、それをもとに看護師が30分ほどかけて、患者さんの痛みや家庭環境、社会的背景などをヒアリングします。その後、医師が診察し、必要に応じていろいろな検査を行い、場合によっては当日に理学療法士の運動療法なども取り入れます。

通常の診療科とは違い、さまざまな専門医や医療スタッフがチームとなって診療する集学的診療を行っており、現在は、整形外科、麻酔科、精神科、内科、歯科などの医師と、理学療法士、臨床心理士、看護師などが所属しています。週に2回行われるカンファレンスには、当センターに所属するスタッフが参加し、初診終了後の患者さんから得られたデータをもとに、治らない痛みを多角的に分析・評価して、一人ひとりに対する治療方針を決定していきます(写真1)

写真
写真1 カンファレンス風景

痛みの治療に向き合うために

長引く痛みは医師の手だけでは完全に取り除くことはできません。痛みがあると、「痛いから動かしたくない」という理由で安静にしてしまう患者さんも見受けられますが、痛みがあっても生活できるようにしていくことが重要です。そのためには、「痛みがあるから○○できない」ではなく、「痛みがあっても○○できる」という気持ちに変えていくことが重要と考えます。

当センターでは、患者さんに必要であると考えられる場合、運動療育センターと共催で開いている「慢性痛教室」を受講していただき、運動だけでなく痛みに対する講義を行うことで、痛みへの理解や生活の改善を促し、痛みに囚われない人生を歩んでいただけるように努めています(写真2、表)。

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写真2 慢性痛教室の講義
回数 内容
1 回 開講式 教室紹介
テスト
メディカルチェック
講義(目標、ゴール設定)
2 回 イントロダクション
メディカルチェック結果説明
講義(治療、慢性痛の問題点)
講義(コーピング、ペーシング)
ヨガセラピー
3 回 イントロダクション
講義(解剖・検査)
ストレッチング 有酸素運動
水中運動
4 回 イントロダクション
姿勢・動作指導
ストレッチング 有酸素運動
水中運動
5 回 イントロダクション
講義(自動思考と痛みの認知)
講義(グループミーティング)
ヨガセラピー
6 回 イントロダクション
講義(認知再構成法、睡眠健康法)
ストレッチング 有酸素運動
水中運動
7 回 イントロダクション
講義(コーピング、ペーシング)
ストレッチング 有酸素運動
水中運動
8 回 イントロダクション
痛みテスト、解説
メディカルチェック
ヨガセラピー
9 回 イントロダクション
メディカルチェック結果説明
テスト
ホームエクササイズ指導
閉講式
表 慢性痛教室のスケジュール

慢性の痛みに対する研究

愛知医科大学医学部では「学際的痛みセンター」を創設し、主に慢性の痛みのメカニズムや治療法などに対する研究を行っています。当センターは、この学際的痛みセンターの診療部門として治療に取り組んでいます。

また現在、当院は厚生労働行政推進調査事業(慢性の痛み政策研究事業)の班長として、全国における痛みセンターの設置や、治療法などの研究を推進しています。「慢性痛教室」も、この研究事業の一環として行っています。

更新:2022.03.16