体にやさしい大動脈瘤ステントグラフト内挿術とは?

愛知医科大学病院

血管外科

愛知県長久手市岩作雁又

大動脈とは?

心臓から出た血液を全身に送り出す動脈の本幹であり、人体で最も太い血管です。心臓から送り出された血液が通過する大動脈(だいどうみゃく)は、脳に血液を送る血管を分枝したあと、背骨に沿って足側に走行します。胸、腹に重要な血管を分枝しながら骨盤で左右に分かれるところまでが大動脈と呼ばれる部分です。

大動脈瘤はどんな病気?

正常な大動脈が部分的に膨らんだ状態のことをいいます(写真1)。具体的には膨らんだ部分の動脈の太さ(動脈径)が、正常部分と比較して1.5倍以上に膨らんだ状態です。大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)は発生部分にり、胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤に分類されます。発生頻度(ひんど)が高いのは腹部大動脈瘤です。

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写真1 胸部と腹部、2か所に大動脈瘤を認めます

大動脈が膨らむ詳細な原因はまだ不明ですが、発生には、加齢と動脈硬化が強く関係していると考えられています。さまざまな報告によると、男性は女性の6~8倍発生しやすく、特に60歳以上になると増加することが分かっています。また、喫煙習慣や高血圧、家族歴がある人も大動脈瘤になる可能性が高いといわれています。それ以外にも遺伝的素因、炎症、外傷が原因として挙げられます。

大動脈瘤はどんな症状があるの?

腹部大動脈瘤が大きくなっていくと、お腹(なか)が張ったような感じや腰が痛くなることがありますが、多くの場合、自覚症状はなく、日常生活に支障をきたすことはありません。

風船を膨らませすぎると破れる(破裂)ことがあるのと同じで、大動脈瘤も大きくなると破裂することがあります。破れると死に至る非常に恐ろしい病気です。大動脈瘤は破裂するまでほとんど症状がなく、ある日突然破裂して大動脈瘤と診断される場合もあり、別名、「静かな殺し屋(silent killer)」と呼ばれています。昔からアインシュタインをはじめ、多くの著名人が大動脈瘤破裂で亡くなっています。過度な心配や不安は必要ありませんが、早期に発見するためには、触診、X線・エコー・CTなどの検査を受けることが大切です。

どんな治療法があるの?

大動脈瘤に対しての治療は手術が必要となります。ただし、大動脈瘤と診断されたらすぐに手術が必要というわけではありません。大動脈瘤治療の最大の目的は、破裂を予防することです。腹部では動脈径が50mm以上となると破裂する可能性が出るため、手術を考えるタイミングとなっています。

手術方法の1つに、足の付け根の動脈から人工血管が折りたたまれたカテーテルを挿入し、大動脈瘤の位置に合わせて開くと、破裂を予防できるカテーテル治療(ステントグラフト内挿術)があります(写真2、3)。胸部、腹部を切開して直接人工血管に置き換える手術を必要としないので、体に負担が少なく入院期間も短期間ですみます。当院では、血管外科と放射線科で協力して手術を行っています。「写真4、5」は、実際に当院で使用している代表的なステントグラフトです。

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写真2 腹部大動脈瘤(治療前)
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写真3 腹部ステントグラフト内挿術後のCT(腹部大動脈瘤治療後)
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写真4 ステントグラフト内挿術のイメージ
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写真5 当院で実際に使用しているステントグラフト

高齢になっても行える、予防のための手術

当科では、腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術を2006年12月から施行し、2017年3月まで合計400例を施行しました。手術を受けた患者さんの平均年齢は76歳と高齢でした。全症例の術後経過を追跡したところ、術後5年間で99%以上の患者さんが大動脈瘤破裂を回避できており、安定した成績になっています。年齢が上がると大動脈瘤になる人の割合も増加しますが、ステントグラフト内挿術は、高齢になっても大動脈瘤破裂を防止できる、体にやさしい手術方法といえます。

更新:2022.03.14