慢性的な肺炎で喀血が続き、止血剤でよくなりません。ほかに治療法はないでしょうか?

愛知医科大学病院

放射線科

愛知県長久手市岩作雁又

喀血に対する血管塞栓術とは、どんな治療ですか?

気管支拡張症や肺結核、肺アスペルギルス症、非結核性抗酸菌症などの慢性炎症による喀血(かっけつ)は、止血剤で治療されることが多いですが、止血剤を使用しても喀血が持続したり、大量に出血したりすることがあります。そのような場合、出血している、もしくは、出血している可能性がある血管内にゼラチンやビーズと呼ばれる細かい粒を注入することにより、出血を止める方法(血管塞栓術(けっかんそくせんじゅつ))があります。

この方法は、足の付け根にある動脈(大腿動脈(だいたいどうみゃく))などから、1~2mmほどの太さのカテーテル(管(くだ))を血管の中に入れ、病変部にいく動脈を見つけます。造影剤を注入して異常な血管が見つかったら、さらに細いカテーテルをできるだけ異常な部分の近くまで進め、塞栓物質を注入します(写真1)。治療時間は2~3時間程度ですが、治療する血管の数などにより前後します。

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写真1 喀血の患者さんの血管造影。塞栓術により異常血管や濃染が消失しています

治療中は、造影剤注入時などに熱感や軽度の痛み、咳(せき)が出ることがあります。強い痛みはなく、子どもなどで安静が保てない場合を除いて、カテーテルを入れる足の付け根に局所麻酔をするのみです。術後は、カテーテルを入れた部位から出血しないように、数時間足を動かさずに寝ている必要があります。

どんなときに塞栓術を受けるのですか?効果や危険性はどのくらいありますか?

慢性の炎症性疾患の患者さんが大量喀血や繰り返す喀血をした場合、まずは、止血剤などの内科的治療や内視鏡による治療をします。これらの治療で良くならない患者さんが、塞栓術を受けられることが多いです。治療に際しては、呼吸器科の医師と相談し、塞栓術が良いかどうかを判断します。

この治療は、初期成功率(治療してから1か月間は喀血がなかった)が8~9割と高い効果が期待できます。慢性の炎症が続いて出血しやすい状況では、再出血することがありますが、そのような場合でも、再治療が可能です。ただし、肺がんによる喀血は、血管塞栓では十分に止血できないことがあります。

危険性(合併症)としては、意図しない部位に塞栓物質が流れ、虚血(きょけつ)(組織や臓器に十分な血液が流れない状態)を起こす可能性が考えられます。例えば、異常な血管と脊髄(せきずい)(背骨の中を走る神経の束)の血管とが、同じ血管から分かれることがあり、脊髄に栄養を送る血管まで詰まってしまった場合は、麻痺(まひ)などが起こる可能性があります。ただし、実際にこのような合併症が起こることは稀(まれ)です。ほかに、造影剤アレルギーなどがあります。

肺動静脈瘻と言われました。塞栓術はできないのでしょうか?

肺動静脈瘻(はいどうじょうみゃくろう)は、肺動脈と肺静脈が直接つながってしまう病気です。肺で酸素を取り込まなかった血液が全身に流れますので、疲労感や労作時の呼吸困難、心不全などを起こします。また、体内の静脈にできた血の塊(かたまり)や静脈に進入した細菌などが、肺で止まらずに、全身に流れてしまうため、流れ着いた場所で悪さをします。脳に流れた場合は、脳梗塞(のうこうそく)や脳膿瘍(のうのうよう)を起こします。また、圧力の高い血液が直接に静脈へ流入するため、血管が膨らみ破裂すると、喀血や胸に血が溜(た)まることがあります(写真2)。

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写真2 動静脈瘻にて拡張した血管を認めます(矢印)。3D-CTでは、治療前にカテーテルを進める経路や撮影する角度などを確認します

肺動静脈瘻は、このような症状を起こす前にも、検診のX線写真などで偶然に見つかることがあります。その場合、足の付け根の静脈(大腿静脈)からカテーテルを入れ、心臓を通過して肺の異常血管まで到達させ、異常血管を金属製のコイルなどで詰める治療も勧められます(写真3)。

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写真3 金属コイルにて塞栓し、異常血管に血液が流れなくなりました

当科のIVR部門の特徴

IVR部門では、大動脈瘤・解離に対するステントグラフト内挿術をはじめ、血管腫・血管奇形の塞栓術や硬化療法、外傷性・周産期出血などに対する緊急止血術、上腕からのCVポート設置などを積極的に行っています。また、手術室内に血管造影装置を併設したハイブリッド手術室(写真4)を有しているため、手術の際に大量出血が危惧される患者さんや、血管塞栓術後に手術が必要になる可能性がある患者さんに対して、部屋を移動することなく血管塞栓術が可能なワンストップ治療を行うことができます。

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写真4 当院のハイブリッド手術室

更新:2022.03.14