野球肩・野球肘に精通ー適切なコンディション指導や投球動作指導・治療を行う

愛知医科大学病院

スポーツ医科学センター

愛知県長久手市岩作雁又

野球肩・野球肘に対するトータルケア

当センターでは、野球肩(やきゅうかた)・野球肘(やきゅうひじ)に精通した整形外科医による正しい診断と治療方針のもとに、熟練した理学療法士によるコンディション指導・投球動作指導などの保存療法が行われ、難治例には適切な手術療法も実施しています。野球肩・野球肘に対する手術療法は、保存療法で痛みが取り切れない野球肩の約5%、野球肘の約8%の選手に手術が行われています。肩関節では、内視鏡による関節唇修復術、肘関節では内側側副靭帯再建術(トミージョン法)や、上腕骨小頭離断性骨軟骨炎に対する骨軟骨移植術などが行われ、大部分の選手が競技復帰を果たしています。

野球肩・野球肘は投げ過ぎだけが原因ではない

投球により肩や肘を壊す原因は、投げ過ぎを含むオーバーユース、不良なコンディション、不良な投球フォームの3つが挙げられます。オーバーユースは、同じく野球の盛んな米国に比べると、いまだ日本では一番の大きな問題であり、現在、日本野球機構との連携による是正が行われています。

また、不良なコンディションや投球フォームのまま野球活動をしている選手が多くいます。投球は、下肢(かし)→体幹→上肢(じょうし)へエネルギーを伝達して最終的にボールにスピードを与える全身運動です。全身のどこかのパーツのコンディションが悪かったり、無理な投球フォームで投げていると、結果的にその負担によって肩や肘が壊れることになります。よって、野球肩・野球肘を治したり予防するには、先に挙げた3つの原因すべてにアプローチする必要があります。

野球肩・野球肘につながる不良なコンディションとは

ハムストリング・股関節周囲筋(こかんせつしゅういきん)・体幹の柔軟性や機能の低下があると上肢に頼った投球となります。投球側の肩後方や肘内側の筋肉は、投球の繰り返しにより疲労して張りを生じます。肩後方の筋肉の張りは肘下がりをまねいたり、肩関節のスムーズな動きを妨げたりします。肘内側の筋肉の張りは、肘の内側の靭帯(じんたい)損傷の危険性を増します。腹筋・背筋などのコア機能の低下、胸郭(きょうかく)の硬さ、肩後方の筋肉の張りがあると肩甲骨(けんこうこつ)の動きが不良となり、結果的に腕のしなりが減るとともに手投げ(体全体を使わずに手先だけで投げること)を誘発します(写真1)。

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写真1 コンディションによる投球時の姿勢の違い

投球フォームを改造すれば肩・肘への負担が減りパフォーマンスが向上する

野球肩・野球肘を減らすには、腕を振って投げる要素を極力減らして、腕が振られる要素を増やす必要があります。そのためには股関節の使い方に注意すること(写真2)と肩甲骨の動きを最大限利用すること(写真3)が重要です。その結果、肩・肘への負担が減って、球速・コントロール・ボールの切れといったパフォーマンスも向上します。

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写真2 投球動作には軸脚股関節の使い方が重要
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写真3 肩甲骨の動きが良好な投球動作の秘訣

小学校高学年に発生する外側野球肘にはエコー検査が有用

小学校高学年の時期に限定して発生する上腕骨小頭離断性骨軟骨炎という外側野球肘があります。この障害は、発生時にはほとんど症状がなく、進行してから痛みが発生するため、早期診断にはエコー(超音波)検査が有用です(写真4)。2016年から肘エコー検査を含む、少年野球選手を対象とした野球検診も行っています。

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写真4 肘エコー検査による外側野球肘の早期発見

更新:2022.03.14