わきの汗が多くて困っています。治療法を教えてください

愛知医科大学病院

皮膚科

愛知県長久手市岩作雁又

わきの汗に悩んでいる人は多いのですか?

汗に悩む人は、決して特別ではなく、2010年に厚生労働省研究班が実施した調査では、国民の7人に1人が、頭部、顔面、わきなどに出る汗の多さが原因で日常生活に支障をきたしていることが分かっています。汗は体温を調節する役割を担う、人間にとって不可欠な生理現象ですが、必要以上の量の汗が出て日常生活に支障をきたす状態を多汗症(たかんしょう)といいます。特に、わきの汗で悩む多汗症(腋窩(えきか)多汗症)の患者さんは多汗症全体の半数にのぼり、その中で日常生活に支障をきたす重度の患者さんは全国に220万人以上いると推定されています。

腋窩多汗症の患者さんは、薄手の衣服や汗じみが目立つ衣服が着られない、わき汗パットを使用せざるを得ず、さらに何度も取り替えなければならない、周囲の目が気になり仕事や学業に集中できないといった訴えが多いです。患者さんは日常生活に制限があるばかりでなく、自分のわきの汗を誰かに見られるということに強く不安を持ちながら生活を送っています(写真1)。

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写真1 腋窩多汗症患者さんのわき汗の様子

腋窩多汗症は、どのように診断し、治療するのですか?

明らかな原因が分からないまま、わきに過剰な汗が出る状態が6か月以上続き、①最初に症状が出たときの年齢が25歳以下だった、②汗が左右対称に出ている、③寝ているときは過剰な汗が止まっている、④過剰な汗による困りごとが1週間に1回以上起こっている、⑤家族に同じように汗が多い人がいる、⑥汗によって日常生活に支障をきたしている――この6症状のうち2項目以上あてはまる場合を腋窩多汗症と診断します。

腋窩多汗症の重症度は、患者さんの自覚症状により、①発汗は全く気にならず日常生活に支障がない、②発汗は我慢できるが日常生活に時々支障がある、③発汗はほとんど我慢できず日常生活に頻繁(ひんぱん)に支障がある、④発汗は我慢できず日常生活に常に支障がある――の4項目に分け、③および④が重症です。

治療は日本皮膚科学会のガイドラインに沿って行います。まずは院内製剤(薬剤師により病院内で調製され、その病院に限定して使用される薬のことをいいます)である塩化アルミニウム溶液を塗ることから始めます。重症例において、塩化アルミニウム溶液を塗るだけでは汗を十分抑えることができない場合や、塗ると肌が痒(かゆ)くなり、かぶれて治療が続けられない患者さんにはボツリヌス療法を行います。

ボツリヌス療法とは、どんな治療ですか?

腋窩多汗症のボツリヌス療法は1996年に米国で初めて行われ、現在は日本も含め世界60か国以上で適応が認められています。ボツリヌス療法は2012年11月、国内でも健康保険で治療ができるようになりました。

ボツリヌス毒素は神経終末のレセプター(受容体)につき、神経細胞内に取り込まれます。ボツリヌス毒素の一部がsynaptosomal associated protein of 25kDa(SNAP-25)というタンパク質に作用し、神経からのアセチルコリン放出を抑制し、汗を抑えます(図)。

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図 ボツリヌス毒素の汗を抑えるしくみ:神経終末におけるアセチルコリン放出(a)、ボツリヌス毒素によるアセチルコリン放出抑制(b)

治療方法は、わきの汗が多い部位に1~2cm間隔で約15か所マーキングします(写真2a)。片わきにボツリヌス50単位(両わきの合計100単位)の量を均等に、汗腺がある皮膚表面から約2mmの深さに皮内注射していきます(写真2b)。注射後1週間位で汗がおさまり、4~9か月間治療効果が続きます。

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写真2 ボツリヌス療法:片わき、約15か所に、1~2cm間隔でマーキング(a)、片わきにボツリヌス50単位ずつを皮内注射(b)

私たちが行った調査での治療満足度は、患者さんの64%が非常に満足している、36%が比較的満足しているという結果でした。治療効果がなくなったら、またボツリヌス療法を受けたいですかという質問に、患者さんの88%がぜひもう一度受けたいと回答されました。しかし、ボツリヌス療法が健康保険で受けられることをどこで知りましたかという質問では、患者さんの約76%が医療機関で初めて医師から教えてもらったという回答で、世間ではまだ健康保険で治療できることが知られていないと感じています。

わきの汗が多いことに1人で悩んでいませんか?

国内で、わきの汗が多くてとても困っている人は約220万人以上いるといわれています。しかし、日頃の皮膚科外来において、わきの汗が多いことで受診する患者さんの数はとても少ないです。したがって、腋窩多汗症の患者さんはわきの汗のことを1人で悩み、大多数は医療機関で治療を受けていない可能性が考えられます。今後、このような患者さんが1人でも多く医療機関を受診し、適切な治療を受けることができる環境作りも大切であると強く実感しています。

更新:2022.03.14