涙の治療について教えてください

愛知医科大学病院

眼形成・眼窩・涙道外科

愛知県長久手市岩作雁又

涙が出る原因は何ですか?

1つ目は、涙の通り道が詰まることです。涙は、上まぶたと下まぶたの内側にある涙点(るいてん)から吸い込まれ、涙小管(るいしょうかん)、涙嚢(るいのう)、鼻涙管(びるいかん)と呼ばれる管を通り、鼻の奥に流れ込みます(図)。涙の通り道の前半は、目の内側にあるのですが、鼻へ抜けるときに骨の中を通って行きます。骨に入ると涙の通り道は急に狭くなるので、ここが詰まりやすい部分といえます。骨の管が小さい人ほど詰まりやすいため、顔の小さい人、つまり、女性の方が男性よりつまりやすく、約10倍に達するといわれています。最近では、抗がん剤のTS-1投与後に、涙小管・鼻涙管が詰まることが問題になっています。

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図 涙道の模式図

2つ目は、涙のポンプ機能が落ちることです。ポンプ機能は、目を閉じるときに働く眼輪筋が主役となっています。まぶたが緩む、すなわち眼輪筋が緩むと、涙を流す力が弱くなり、涙がこぼれやすくなります。

3つ目は、涙の量が増えることです。逆まつげや乾燥により目の表面が刺激されると、一時的にたくさんの涙が出ます。これがポンプによる排出能力を上回ると、外にこぼれてしまいます。この症状に対しては、逆まつげの手術をしたり、点眼で乾燥を防いだりします。

涙の手術では、顔に傷が残りますか?

骨の管の部分で詰まっている場合には、涙嚢の内側にある骨を小指の先の大きさほど削って、鼻へのバイパス(迂回(うかい)路)を作ります。この手術を「涙嚢鼻腔吻合術(びくうふんごうじゅつ)」といいます。目の内側部分の皮膚を2cmほど切って行う方法が広く用いられていますが、当科ではさらに工夫を加え、鼻の粘膜と涙嚢の粘膜をうまく組み合わせて縫う方法を開発し、術後の再閉塞を全く起こさない手術を行っています。

皮膚の傷が気になる患者さんには、内視鏡を使って鼻の中から手術を行っています(写真1)。この方法では皮膚に傷がつきません。手術後に鼻の中に溜(た)まったごみを丹念に取り除けば、術後の再閉塞も数%に抑えることができます。

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写真1 鼻内視鏡を用いた涙嚢鼻腔吻合術(るいのうびくうふんごうじゅつ):麻酔をしているところ(矢印)

涙小管の部分が詰まっている場合には、涙道内視鏡という直径1mmぐらいの細い内視鏡を使って手術します(写真2)。涙道内視鏡を使うと、詰まった部分を直接見ながら手術ができるので、90%ほどの成功率をあげることができます。閉塞が強く、涙小管を再開通させることができない場合は、涙嚢鼻腔吻合術に加えて、目の内側に細いチューブを入れて、鼻へのバイパスも作ります。

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写真2 涙道内視鏡:涙道に挿入して中を観察します

まぶたの緩みや、逆まつげがある場合は、これらに対する手術を行います。また、腫瘍(しゅよう)がある場合は、摘出します。

当科は、まぶたや目の奥の手術も専門としていますので、このような手術にも対応することができます。

先天鼻涙管閉塞は手術が必要なのですか?

生まれてすぐの赤ちゃんはほとんどが、涙道の鼻に開口する部分が閉じており、鼻涙管が閉塞しています。しかし、このうちの約50%は、生後1か月のうちに自然に開通します。その後も、泣いたり、お母さんのおっぱいを吸ったりしているうちにどんどん開通していき、生後1年までに90~96%が、生後2年までに98%が開通します。

当科では、炎症が強い場合を除いて、生後1年までは外科的な処置を行わずに様子をみるようにしています。この時点までは、様子をみた場合と、外科的な処置を行った場合でも、治癒(ちゆ)率が同じだからです。1歳になっても自然に開通しない患児には、ブジーという針金のようなものを通して、鼻に抜ける通路を作る治療を行います。

1回の治療で確実に治すことが重要であるため、当科では、全身麻酔下で、涙道内視鏡を用いた手術を行っています。論文による報告でも、全身麻酔下での処置の方が成功率は大きいとしており、当科の方針と一致しています。

内視鏡で行う、目の手術

内視鏡などを用いて体への負担を少なくした手術、美容的に配慮した手術が世の趨勢(すうせい)となっていますが、まぶたや目の奥、涙道の手術でも同様です。

下がったまぶたを上げる眼瞼下垂(がんけんかすい)の手術では、数ミリの傷から行うことによって、術後の傷がほとんど目立たなくなりました。

目の奥の手術においても同様で、皮膚の切開を二重まぶたのラインや目尻など、目立ちにくい場所にすることで美容的に配慮しています。

涙道の手術においても、内視鏡を用いることによって皮膚を切らずに治せるようになりました。

一方、まぶたのがんは、確実に治すために周囲の正常な組織を5mm程度含めて切除します。この場合、近い部分の組織を用いて再建することで美容的、機能的にも、かなりの程度、満足な結果を得ることができます。

更新:2022.03.14