安全で正確だけじゃない!体にやさしい肺がん手術ー胸腔鏡、そしてロボットへ

愛知医科大学病院

呼吸器外科

愛知県長久手市岩作雁又

肺がん=危ない“がん”

がんを患っている患者さんの数は、男性では胃がん、女性では乳がんが1位です。しかし、男女合わせた死亡者数は1998年から肺がんがトップを独走しており、年間7万人以上の患者さんの命が奪われています。私たち、肺がん治療に携わる医師の目的は、このような患者さんを1人でも減らすことです。

今のところ、どんな肺がんにも100%効く薬はないので、治療の第1選択は切って取ること、すなわち手術になります。

肺がんの手術治療=開胸から胸腔鏡、そしてロボットへ

肺がんを手術で治療するためには、がんを含めて肺を切除します。肺は肋骨(ろっこつ)(あばら骨)に囲まれた硬い胸壁(胸の壁)の中にあります。肋骨の間から手を入れて手術をするためには、長さ20~50cmの傷と1~2本の肋骨切断を必要とします。これを開胸手術、あるいは標準開胸手術といいます(図1a)。手術道具と技術の進歩によって傷を次第に小さくしていき、10~20cmの傷でも同様の肺がん手術ができるようになりました。これを小開胸手術と呼んでいます(図1b)。ずいぶんと傷は小さくなりました。

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図1 肺がんの手術治療

次に胸腔鏡(きょうくうきょう)と呼ばれるカメラが登場し、肺がん手術は劇的に進化しました(図2)。当院では、1~2cmの傷を2か所と、肺を取り出すための3~4cmの傷を1か所で、肺がんの手術を行っています(図1c)。この3か所の傷からカメラと器具を挿入して、肺がんの手術を行います(図2)。これを胸腔鏡下手術と呼びます。開胸手術と傷を比べて、どちらが低侵襲(ていしんしゅう)、すなわち体に負担の少ない手術かお分かりになるでしょう。すべての肺がん手術が胸腔鏡でできるわけではありませんが、当院の肺がん手術の約90%は胸腔鏡下手術です。

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図2 胸腔鏡下手術

現在、私たちはさらなる安全性と正確性を求めて、ロボット支援手術に取り組んでいます。医師がロボットアームを操って行う手術です。胸腔鏡の器具とは異なり、ロボットアームの先には小さな関節がついていて、あたかも人間の手首のように動くのです(写真1)。これによって安全で正確な手術操作が可能になります。当院には最新の手術支援ロボットであるダビンチXi®(写真1)があり、このシステムを肺がん手術に導入すべく申請中です。

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写真1 手術支援ロボット

ハイブリッド手術室=CTの「眼」で小さな肺がんも逃さない

胸のCT検査が簡単にできるようになり、肺がんが早期に発見できるようになりました。また、直径10mm前後の「影」が見つかることも増えてきました。このような影も、肺がんが疑われる場合には、診断と治療を兼ねて手術が必要になることがあります。

しかし、この影は胸腔鏡では見えませんし、手を入れて触っても触れないことがあるため、手術中にCT撮影ができる手術室、通称「ハイブリッド手術室」(写真2)を使って手術を行っています。影のように見えた小さな肺がんも、手術中にCTの「眼」を使って、見逃さず正確に切除できるのです。

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写真2 ハイブリッド手術室

集学的治療=どんな手を使ってでも肺がんを治す

当院では、肺がんを治すために、手術はもちろんのこと、抗がん剤治療、そして放射線治療を組み合わせて行います。これを集学的治療といいます。つまり、肺がんを治すためには、どんな手でも使うということです。例えば、進行した肺がんを手術の前に抗がん剤投与と放射線照射で小さくしてから、手術で治療します。これには外科、内科、放射線科の連携が必要です。この3つの診療科が集まって話し合う「合同カンファレンス」を行っており、どんな時でも、診療科の垣根を越えて医師同士が相談できる環境を作っています。

更新:2024.01.25