健診で「貧血」と言われました。何か原因があるのでしょうか?

愛知医科大学病院

血液内科

愛知県長久手市岩作雁又

「貧血=鉄不足」なのですか?

「貧血」と言われ、最初に思い浮かべるのは「鉄不足」だと思います。しかし、成長期の子どもや生理がある女性を除くと、鉄不足による貧血はそれほど多くありません。逆に、成人男性や高齢者で鉄不足による貧血がみつかると、胃がんや胃潰瘍(いかいよう)、大腸がんなど胃腸の病気が隠れていないか注意が必要です。胃にピロリ菌が感染し、鉄が吸収されにくくなることもあります。鉄不足による貧血と診断されても、通常は食事や健康食品だけで鉄分を補えないこともご理解ください。鉄不足以外に、ビタミン、ミネラルの不足や、リウマチのような慢性炎症、腎臓の病気、がんが原因の貧血もあります。貧血には必ず原因があり、それを明らかにすることが大切です。健診などで貧血と言われたら、血液内科を受診していただき、適切な診断と治療を受けることをお勧めします。なお、貧血とは赤血球の不足のことです。ふわふわした感覚や立ちくらみは「脳貧血」と呼ばれ、貧血とは異なります。

血液検査で貧血の原因が分かりますか?

中高年男性の貧血や、閉経期を迎えた女性の貧血は別の病気が原因となっていることが多く、特に注意が必要です。当院には、最新鋭の高性能血球分析装置XN-5000(写真)が配備されており、血液数ccだけで精密な解析が可能です。しかも1時間以内に結果が得られます。鉄不足であれば、消化管(口から肛門まで)に病気がみつかることがあります。

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写真 高性能血球分析装置XN-5000により、少量の血液で迅速に血液検査が可能になりました

鉄以外に、ビタミンB12や葉酸、銅、亜鉛といったビタミンやミネラルの不足でも貧血が起こります。また、血液が壊れやすくなる貧血(溶血性貧血)もあります。胆石や黄疸(おうだん)をきっかけに、溶血性貧血がみつかることもあります。肝臓や腎臓など内臓の病気やホルモンの病気、がんが原因のこともあります。

前回の健診よりヘモグロビンの値が2以上低下している場合は、特に注意してください。赤血球に加え、白血球や血小板も減っている場合、骨髄(こつずい)で血液がしっかりつくられているか調べるため、骨髄検査が必要になることがあります。当院は、血液内科と血液検査技師が緊密に連携し、平日午前中の受診であれば、当日に骨髄検査を受けることも可能です。骨髄検査は大変な検査ではなく、「骨髄からの採血」といった感覚が正しいと思います。

ビタミンB12が不足すると、どんな症状が起こるのですか?

ビタミンB12はとても重要なビタミンです。不足すると、赤血球・白血球・血小板の減少やしびれ、めまい、舌の痛み、白髪、認知機能の低下などが起こります。ビタミンB12は肉や魚に多く含まれますので、菜食主義を除くと、通常の食生活でビタミンB12が不足することはありません。ただし、ビタミンB12の吸収には胃が必要なので、胃の手術を受けたあと5~6年くらい経つと、ビタミンB12が不足してきます(通常は鉄不足も併発)。その場合はビタミンB12を注射で補うことが可能です。特に胃の全摘術を受けた患者さんは注意してください。お酒を大量に飲む方は、ビタミンB12や葉酸が不足し、似た症状が起こることがあります。

骨髄腫・リンパ腫の診断、治療の最前線

骨髄腫(こつずいしゅ)は血液がんの一種で、貧血や骨折、腎障害などが起こります。最近は、骨髄腫の細胞を狙いうちする「分子標的薬」が次々と登場しています。「自家造血幹(じかぞうけつかん)細胞移植」という患者さん自身の血液細胞を用いた治療法も有効です。ただ、どの薬剤が効くのか、これまで治療前には分かりませんでした。しかし、当科では患者さんごとに、がん細胞の性質や体質を詳しく調べることで、治療効果を推測する試みを開始しています。これにより、それぞれの患者さんに適した、より安全で効果的な「精密医療」を提供することができると考えています。

リンパ腫は、悪性リンパ腫とも呼ばれ、リンパ球ががん化したものです。多くはリンパ節に起こりますが、脳や脊髄を含め全身どの臓器からも生じます。診断には、リンパ節などの採取が必要となります。治療前には画像(CT、PET)検査や骨髄検査、消化管検査などを行い、病気の広がりを把握します。抗がん化学療法や放射線療法に加え、リンパ腫にも分子標的治療が数多く使えるようになり、治療成績も向上しています。自家移植に加え、同種(他人の血液)移植を行こともあります。

骨髄腫・リンパ腫いずれも、外来での治療が増えてきました。できるだけ円滑に治療が進められるよう、外来・入院スタッフが緊密に連携しています。また、新しい診断・治療法の有用性を調べる臨床試験も積極的に行われています。興味がある方は、担当医にお尋ねください。

更新:2022.03.14