変形性膝関節症患者さんの術後満足度向上のために

愛知医科大学病院

人工関節センター

愛知県長久手市岩作雁又

変形性膝関節症の患者さんの数

厚生労働省の報告によると、国内での変形性膝関節症(ひざかんせつしょう)の患者さんは、歩くときの痛みや膝(ひざ)が曲がりにくいなどの自覚症状のある患者さんが約1000万人にのぼり、痛みは感じていなくても、X線写真で膝の変形がみられる潜在的な患者さんは約3000万人と推定されています。

変形性膝関節症を発症する確率は高齢になるほど上がります。超高齢社会の現在、患者さんの数は年々、増加しています。

延ばそう健康寿命!

健康寿命とは、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間のことです。2013年の厚生労働省の報告によると平均寿命と健康寿命には、男性で約9年、女性で約12年の差があります。健康寿命を延ばすためには、スポーツ・身体活動が重要であるとの報告があり、さらにはスポーツ・身体活動が医療費抑制に効果があるとの報告もあります。

また、介護が必要になった主な原因についてみると、「脳血管疾患」が17.2%と最も多く、次いで、「認知症」16.4%、「高齢による衰弱」13.9%、「関節疾患」11.0%となっており(2013年厚生労働省データ)、「関節疾患」の主な症状である痛みを取り除くことが、健康寿命の延伸につながると考えられます。

術前の患者さんの状態が異なれば、手術の方法、術後のゴールも変わる!

末期の変形性膝関節症に対する最終的な手術療法として、人工膝関節置換術があります。人工膝関節置換術は、現在、国内で年間約8万件が行われている標準的な手術療法ですが、人工関節にはさまざまな種類があります。人工関節に置き換える部位で分けると、膝関節の一部だけを人工関節とする単顆型人工膝関節置換術(写真-a)と、膝関節全体を人工関節とする全人工膝関節置換術(写真-c)があります。どのような人工関節が適応となるかは、術前の状態や、術後にどのような運動をしたいかという希望によっても変わります。また、術後に登山など負荷の大きな運動を希望される場合には、人工関節ではなく、内視鏡を用いた手術や骨切り術(写真-b)の選択も可能です。このように術後の患者さんのニーズに対応できる手術療法を選択できることが、当センターの意義であり、患者さんの術後満足度の向上につながると考えています。

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写真 変形性膝関節症の手術/(a)単顆型人工膝関節置換術、(b)高位脛骨骨切り術、(c)全人工膝関節置換術

かかりつけ医・他部署との連携

当センターでは、かかりつけ医や他部署と連携し治療を行っています。具体的には、手術の際の麻酔は、麻酔科専門医による全身管理のもとで行います。人工膝関節置換術は比較的術後の痛みが強い手術ですので、術後は総合集中治療室(GICU)へ入室し、整形外科医と麻酔科専門医を中心として痛みのコントロールと全身管理を行います。

一般病室へ戻った後は疾患別にチームが編成されているリハビリテーション部と連携し、術後リハビリテーションを行います。安心して自宅へ退院ができるように、理学療法士が術後のリハビリテーションを支援します。

自宅への退院後は、基本的にはかかりつけ医のもとでリハビリテーションを行いますが、より負荷の強いリハビリテーションを希望される場合は、運動療育センターとの連携も可能です。運動療育センターでは、プールを利用したり、最新のマシーンを用いたりする運動が可能です。さらに、術後の痛みが長引く場合は、痛みセンターとの連携を行い、痛みのエキスパートによる治療も可能です。

人工膝関節の耐用年数は飛躍的に延びていますが、一般的には約15~20年といわれています。人工膝関節に不具合が生じても気づかないこともあるため、かかりつけ医と連携を行いながら、当センターにおいても術後定期検診を行います。

最後に、人工膝関節の一番良いところは、痛みが大きく軽減することです。日常生活を快適にすることで健康寿命の延伸が期待できます。

更新:2022.03.14