背骨の手術をより安全にー3Dモデルを使った脊椎手術

愛知医科大学病院

脊椎脊髄センター

愛知県長久手市岩作雁又

「背骨の手術は怖い」

「背骨(せぼね)の手術は怖い」と言われる方が多いです。

当院では、整形外科、脳神経外科を合わせて年間300件以上の脊椎脊髄手術(せきついせきずいしゅじゅつ)を行っています。背骨(脊椎)の中には、脊髄神経が走っていますので、慎重な手術と十分な準備が必要です。整形外科・脊椎脊髄センターでは、神経障害を予防するための脊髄モニタリング、手術用顕微鏡などを使い、安全な手術に努めています。また難易度の高い手術では、患者さんの背骨と同じ3Dモデルを作製して手術の準備をしています。

2015年7月から3Dプリンター「ProJet160」を導入し、手術支援として脊柱(せきちゅう)変形、脊椎腫瘍(しゅよう)など手技的に困難な手術例において3Dモデル作製を行っています。3DモデルはCT画像から3D画像を作成し、モデル造形用に編集を加えて3Dプリンタ-で立体モデルを造形しています。画面で見る3D画像よりも立体的な手術の検討が可能なため、難易度の高い手術の精度・安全性の向上などに役立っています。医療保険で認められており(K939画像等手術支援加算、実物大臓器立体モデルによるもの〈2000点〉)、患者さんの費用負担は2000~6000円です。

背骨の変形を手術で安全に矯正

手術例①

脊椎に先天性の変形があり、背骨が後弯(こうわん)(前に曲がる)していました。そのため脊髄神経が圧迫されて下肢(かし)にしびれや痛みがあり、歩くことに困っていました。

脊髄神経があるところ(脊柱管)が大変狭くなっており、手術に慎重さが必要でした。術前に3Dモデルを作り(写真1、2)、MRI画像と照らし合わせながら手術方法を決めます。安全に後弯の矯正と神経の圧迫をとることができました(写真3~5)。

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写真1手術前の状態を把握します
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写真2手術後の状態をイメージします
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写真3手術前の検査画像
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写真4手術後の検査画像(◯内:神経の圧迫が改善しています)
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写真5 手術前(a)と手術後(b)の検査画像

背骨の腫瘍を安全に手術

手術例②

脊椎に腫瘍ができたために腫瘍切除を行いました。

腫瘍は非常に再発しやすいタイプで、術後の再発を防ぐために腫瘍にマイナス196℃の液体窒素をかけて、腫瘍細胞を死滅させる治療(凍結療法)を行いました。腫瘍周囲の正常な組織を傷(いた)めないように、術前3Dモデルでデモンストレーションを行い(写真6)、安全に手術を実施しました(写真7)。

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写真6 3Dモデルを使い、腫瘍に液体窒素をかけます
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写真7 実際の手術に、3Dモデルで行ったデモンストレーションが生かされます

3Dプリンタの未来

現在、3Dプリンターは脊椎手術以外に、股関節(こかんせつ)の手術でも術前のシミュレーションとして使っています。

今後、金属性のモデルを作製できる3Dプリンターが医療分野に応用されるようになれば、実際に体内に長期間埋め込まれるインプラント(金属固定材)が、テーラーメードで作製できることも期待されます。

更新:2022.03.14