NICU(新生児集中治療室)におけるファミリーセンタードケア

愛知医科大学病院

周産期母子医療センター(新生児集中治療部門)

愛知県長久手市岩作雁又

ファミリーセンタードケアとは、どういう意味ですか?

当院のNICUでは、「ファミリーセンタードケア」に力を入れています。適切な日本語がないので、国内でもこう呼んでいます。あえて訳すならば、「患者さんを家族の一員としてとらえて行うケア」とでもいいましょうか。

病気もなく元気に生まれた赤ちゃんは、生まれてすぐに家に帰って、家族と一緒に過ごします。お母さんやお父さん、お兄ちゃんや、お姉ちゃん、大好きな家族に囲まれてすくすくと育っていきます。赤ちゃんの健やかな発育・発達にとって家族が必要であることは言うまでもありません。

しかし、生まれて病気が見つかり、すぐに入院しないといけなくなった赤ちゃんは、ひとりぼっちでNICUで入院生活をしないといけません。なぜなら国内のNICUでは、家族の付き添いが構造的にできない施設がほとんどだからです。発育・発達には家族の力が必要ですし、赤ちゃんは家族と一緒だと、病気と闘うたくさんの力を発揮します。その意味でも、家族の力を貸してもらおうという取り組みを「ファミリーセンタードケア」と呼んでいます。

ファミリーセンタードケアは具体的にどんなことをするのですか?

子どもと家族が、一緒に過ごしやすいための工夫

赤ちゃんのベッド一つひとつの間に仕切りを作り、家族と赤ちゃんが、ゆっくり過ごせる空間を確保しています。

家族による子どものお世話が尊重される雰囲気

どんなに重症であっても、家族と相談の上、おっぱいやミルクなど、家族がお手伝いできるケアを提案し支援します。

治療などについて、家族と医療スタッフが一緒に相談する

毎日の回診に家族の参加をお勧めしています。日々変わる赤ちゃんの病状を共有するのはもちろんのこと、赤ちゃんの治療方針決定に参加することもできます(写真)。

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写真 家族も参加する回診の風景です。家族、医師、看護師以外にも、助産師、薬剤師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーも参加し、多職種で赤ちゃんの治療プランを相談しています

痛いことやつらいことがなるべく少なくなるよう、家族と医療スタッフが力を合わせる

赤ちゃんの痛みの緩和ケアに力を入れています。痛い処置をされる赤ちゃんにとって、家族の存在はたいへん心強いものです。赤ちゃんにとってより良い痛み緩和法を家族と相談しながら一緒に行っています。

家族の力で本当に赤ちゃんの痛みは緩和されるの?

当院のNICUでは開設当初より、赤ちゃんの痛み緩和に力を入れてきました。以前は、赤ちゃんは痛みを感じにくいと考えられていた時代がありましたが、現在は多くの学術的な研究が蓄積され、赤ちゃんは痛みを表現するのが苦手なだけで、痛みはしっかり感じていることや、大人に比べて痛みに弱いことが分かってきました。

しかし、副作用の心配があり、赤ちゃんにはあまり強い痛み止めの薬は使えませんので、それ以外の方法で痛み緩和を行います。家族の手で赤ちゃんを包み込んであげたり(図1)、直接お母さんの母乳を飲んでもらったり(図2)、カンガルーケア(お父さんやお母さんの裸の胸に赤ちゃんを抱っこすること)を行ったりすることで(図3)、赤ちゃんの痛みがずいぶん緩和することが分かっています。これらの痛み緩和は、家族の協力がなくてはできません。また、砂糖水を1滴舌の上にたらすことで、赤ちゃんの痛みが和らぐことも分かっています。

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図1 赤ちゃんをやさしく包み込んであげます
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図2 直接お母さんのおっぱいを飲むことも大切なケアです
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図3 お父さんやお母さんの裸の胸に赤ちゃんを抱っこすることで痛みを和らげます。Skin-to-skin contactともいいます

当院NICUでは、国内で初めて企業と共同で「赤ちゃzんの痛み緩和用の砂糖水」を製品化しました。

更新:2022.03.14