稀な病気、肺胞蛋白症の治療について教えてください

愛知医科大学病院

呼吸器・アレルギー内科

愛知県長久手市岩作雁又

肺胞蛋白症とはどんな病気なの?

肺の最も奥に肺胞(はいほう)という、とても小さな袋状の構造があります。大きさは10分の1~2mmです。肺胞は吸い込んだ空気から酸素を取り入れ、炭酸ガスを出しています。空気を取り入れるため、肺胞はいつも膨らんでいなくてはなりません。そのために必要な物質がサーファクタントです。通常サーファクタントは肺胞の内側にうっすらと適量存在しています(図1)。

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図1 肺胞とサーファクタント

肺胞蛋白症(はいほうたんぱくしょう)は、そのサーファクタントがさまざまな原因で余分に溜(た)まり、肺胞全体を占めてしまうようになる病気です(写真)。そうなると空気が肺胞に十分に入らなくなり、患者さんは酸素欠乏に陥ったり、溜まったサーファクタントのせいで咳(せき)や痰(たん)に苦しみます。

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写真 重症肺胞蛋白症の患者さんの肺の顕微鏡写真

肺胞蛋白症は古くから知られている病気ですが、患者数はとても少なく、国内で1年間に新たに発症する方は、100万人に1人未満と考えられています。

全肺洗浄とは、どのような治療なの?

成人の肺胞蛋白症のうち約90%は、サーファクタントを適量に保つために必要な物質の働きが低下して発症します。自分の体が産生する「抗体」が原因です。しかし、不思議なことに20~30%の方は自然に良くなります。したがって、まずはしばらく経過をみます。しかし、その結果悪化したり、最初から症状が強い方では「全肺洗浄」を行います(図2)。

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図2 左全肺洗浄の方法

これは全身麻酔をかけ眠った状態で、手術室において片肺に生理食塩水を満たし、次にそれを排出するということを20~30回繰り返します。これによって溜まっているサーファクタントが除かれ、肺胞に空気が入るようになって症状が改善します。この方法により、しばらく治療をしなくて済むようになる方もいますが、再燃(病気が再度悪化すること)する方では、全肺洗浄を繰り返すことがあります。

当科は、麻酔科の協力を得て豊富な全肺洗浄経験があり、さまざまな重症度の方に対して、いろいろ工夫を凝らして全肺洗浄に取り組んでいます。

そのほかの治療法はないの?

全肺洗浄は効果が確実ですが、左右の肺の洗浄と洗浄後の体力の回復を含めて、約1か月の入院が必要です。また、合併症が発生する可能性もあります。より簡単な方法として、前述の抗体が産生されるタイプの肺胞蛋白症では吸入療法が試みられています。この治療法は現在、公的医療保険の適用ではありませんので自費診療になります。

当科では、東海地区で唯一新しい医薬品の効果を確かめ、公的医療保険の適用を目指す臨床治験を実施しています。この臨床治験に参加される場合は、費用をかけずに吸入療法を受けることができます。しかし、対象となる患者さんには条件があり、治験に参加できる期限もありますので、詳しくは当科にお問い合わせください。

指定難病になっている自己免疫性肺胞蛋白症

抗体が産生されるタイプの肺胞蛋白症(自己免疫性肺胞蛋白症)は、血液中の抗体濃度を測定しなければ診断がつきません。現在、国内で抗体濃度を測定できるのは、当科を含め3施設です。また、自己免疫性肺胞蛋白症は厚生労働省の指定難病になっています。動脈血の酸素の量がある数値以下であったり、ほかの条件が満たされれば医療費助成の対象となります。当科はこれまで10年間にわたり、厚生労働省の難治性疾患克服事業の調査研究班員として活動しています。「肺胞蛋白症一般利用者向け情報サイト」(http://www.pap-support.jp/)に、肺胞蛋白症に関するより詳しい情報が掲載されています。

更新:2024.10.29

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