泌尿器科のロボット支援下手術ー「ロボットの手」で機能を守る

愛知医科大学病院

泌尿器科

愛知県長久手市岩作雁又

ロボット支援下手術とは

最近の手術手技の進歩はめざましく、従来大きな創(きず)で行っていた手術の多くは、体に小さな穴をあけ、内視鏡を挿入して行う腹腔鏡(ふくくうきょう)(体腔鏡)手術で行えるようになりました。その利点は、術後のより早い離床や食事の再開、痛みの軽減、美容上の美しさ、短い入院期間、そして医療費用の削減などが挙げられます。

ロボット支援下手術とは、腹腔鏡手術をさらに進化させた手術で、鉛筆ほどの太さで関節があり自由に動かせる「ロボットの手」を用いて、腹腔鏡下で行う手術です。従来の腹腔鏡手術よりもさらに複雑で繊細な手術が可能であり、また精密な3次元の画像情報も取得できるため、より安全かつ高度な手術が行えるのです。

当院では、前立腺がんに対するロボット支援下手術を2012年4月から導入し、2017年3月までに450人以上の患者さんに受けていただいています。2015年12月には手術支援ロボット、ダビンチの最新機種、daVinci Xi Surgical Systemへの更新を行っています(写真1)。また比較的小さな腎臓がんに対するロボット支援下腎部分切除術(腫瘍(しゅよう)のある腎臓を摘出せず、できるだけ腎臓の正常部分を温存する)が2016年4月に保険適用となり、その手術件数は増加傾向にあります。さらに、まだ保険適用外ですが、膀胱(ぼうこう)がんに対するロボット支援下膀胱全摘除術も、一部の患者さんに受けていただいています。

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写真1 手術室の様子(手前:ロボット助手2名、看護師1名 奥:術者)

前立腺がんに対するロボット支援下手術

限局性(げんきょくせい)前立腺がん(がんが前立腺内にとどまっている状態)に対する治療です。約10日間の入院で行い、手術時間は概ね2~4時間です。お腹(なか)に「ロボットの手」を挿入する穴(大きさは5~12mmで、全6か所、写真2)をあけ、ロボット本体と接続します。術者がロボットを操作し、助手や看護師、麻酔科医師が患者さんの近くでサポートします。前立腺を取り除いた後、膀胱と尿道をつなぎます。がんが転移しやすいリンパ節も切除します。前立腺はロボットの操作が終わった後、へその創から体外に取り出します。

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写真2 前立腺がんに対するロボット支援下手術後3か月の手術

前立腺の左右には陰茎(いんけい)を勃起(ぼっき)させるための神経があり、これを温存しなければ、術後に勃起はほぼ不可能となってしまいます。手術中にこの神経温存をすることで、術後尿失禁の早期回復につながる可能性も報告されています。患者さんの病勢にもよりますが、当院では積極的に神経温存手術を行っています。

術後は、翌日から歩行を、2日後には食事を開始します。尿は尿道カテーテル(管(くだ))から排泄せ(はいせつ)され、この管は6日後に抜きます。ドレーン(血液やリンパ液を排液する管)も数日は留置されます。尿道カテーテルを抜いて排尿状態を確認し、問題がなければ、その後数日で退院となります。

退院後は尿漏れなどの排尿状態や性機能の評価、腫瘍(しゅよう)マーカーであるPSAの測定などを定期的に行います。術後早期の尿漏れは多くの方にみられますが、1年以内に90%以上の方で尿漏れがなくなるか、わずかな漏れ(尿とりパッド1日1枚以内)となり、改善しています。

比較的小さな腎臓がんに対するロボット支援下手術

腫瘍の位置や大きさなどにより(図)、手術時間や創の数、位置は個人差がありますが、いずれも入院期間は約10日間です。患者さんの体とロボット本体を接続し、腎臓の動脈を一時的に遮断(しゃだん)します。その間に腫瘍の切除と切断面の縫い合わせを行います。切り取った腫瘍は、ロボットの操作が終わった後、創から体外に取り出します。

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図 ロボット支援下腎部分切除術(左)の創の位置関係

術後は、徐々に体を慣らしていきながら、数日後にドレーン(血液やリンパ液を排液する管)を抜いて、問題がなければ、その後数日で退院となります。

退院後は、定期的な通院の中で適宜、温存した腎臓の機能や画像検査を評価し、経過観察を行っていきます。

更新:2024.01.25