母と子と子宮を守る医療について教えてください

愛知医科大学病院

産科・婦人科  周産期母子医療センター(周産期医療部門)

愛知県長久手市岩作雁又

お産で亡くなることがあるのですか。お産は安全なものではないのですか?

妊娠中から出産後に妊婦さんが亡くなることを妊産婦死亡といいます。国内では、毎年100万の出産があり、30~40人の妊婦さんが亡くなっています。10万出生あたりの死亡数で表す妊産婦死亡率は、3~4人で、3万出生に対し1人が亡くなっていることになります。2011年は3.8人で、安全度は世界の最高水準です(図)。医療介入がないと250出生に対し1人の妊産婦死亡率といわれています。

グラフ
図 妊産婦死亡率の国際比較
妊産婦死亡率=年間妊産婦死亡数÷年間出産(又は出生)数×100,000
妊娠中または妊娠終了後満42日未満の女性の死亡(「平成22―24年妊産婦死亡症例検討実施83事例のまとめ~母体安全への提言~日本産婦人科医会」をもとに作図)

1900年頃の日本の妊産婦死亡率は、400人(250出生に対し1人)でした。約100年で日本の周産期管理が発達し、100倍以上安全になりました。愛知県では、2007~2013年の7年間に年間約7万の出生があり、妊産婦死亡率は9人と全国平均(4人)より高いものでした。

当院は、愛知県の妊産婦死亡が全国平均以下になることに向けて、さらには妊産婦死亡ゼロを目標として、安全なお産を提供することを目指しています。

お産のときに出血で亡くなることはあるのですか?

お産のときの出血量が経腟(けいちつ)分娩で1000ml、帝王切開で2000mlを超えると危機的産科出血と呼ばれ、凝固因子(血を固める成分)が減少して出血が止まらず、血圧が低下し、全身に血液が循環しなくなり、生命の危機的状態が発生します。大量出血の原因は、産道や子宮の損傷、子宮の収縮不良、前置胎盤(ぜんちたいばん)・癒着(ゆちゃく)胎盤、常位胎盤早期剥離(はくり)などの胎盤の異常や、子宮型羊水塞栓(そくせん)などがあります。

2004年に福島県の病院では、帝王切開時に癒着胎盤が原因の大量出血で妊婦さんが亡くなっていますが、その治療は点滴や輸血による血圧の維持と凝固因子を補充しつつ、出血の原因を取り除くことです。

当院は、このような危機的産科出血に対して24時間いつでも対応できるように準備し、産婦人科のみでなく、救命救急科、麻酔科、外科などと協同して治療にあたっています。

癒着胎盤の疑いがあると言われました。子宮を取らずにお産することはできますか?

これまでは子宮からの出血が止まらない場合、子宮を摘出し、子宮と引き換えに妊婦や子どもの命を守るという厳しい選択が行われてきました。しかし、命も子宮も守ることを可能にする新しい治療ができるようになりました。それは、血管内治療(動脈塞栓術、写真1)です。

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写真1 放射線科医師によるカテーテル室での血管内治療

動脈内にカテーテル(管(くだ))を入れ、そこから出血部位へとつながる動脈に塞栓物質を入れて、止血するものです。当院では、この血管内治療を担当する放射線科医が24時間待機しています。

ある日の夜間、分娩後の大量の性器出血によって搬送された患者さんに、搬送後約20分で血管造影を開始し、出血部位を確認し(写真2a)、塞栓物質を入れて止血できました(写真2b)。しかし、動脈塞栓術後の妊娠は癒着胎盤が多いとの報告があり、子宮内止血バルーンの使用や総腸骨動脈バルーン留置による血流遮断など、次の段階の治療を求めて進んでいきます。

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写真2 動脈造影による出血部位の診断(a):丸囲みの部位より造影剤の漏出がみられ、出血しています
動脈塞栓による止血(b):↓の部位に塞栓物質を置き、造影剤の漏出が消失、止血されました

妊産婦死亡に対する取り組みと次の妊娠につながる治療

妊産婦死亡は、大量出血、高血圧・脳卒中、産科的血栓(けっせん)・塞栓が3大原因です。なかでも高血圧・脳卒中への対応は高齢化する妊婦の増加に伴い、今後最も重要な課題になると考えられます。当院では、妊婦の高血圧の研究を行い、その予防・管理やさらに将来の生活習慣病発症予防に取り組んでいます。

また近年は、命を守るだけでなく、次の妊娠につながる治療が求められています。当院では、子宮筋腫(きんしゅ)、子宮内膜症の患者さんに対して腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)を行い治療することで妊孕性(にんようせい)(妊娠する力)を高め、また、子宮がん患者さんには妊孕性を温存した手術を行っています。

更新:2024.01.26