病理診断が最先端のがん治療を可能にする

愛知医科大学病院

病理診断科

愛知県長久手市岩作雁又

病院で意味する病理とは

病理とは、病理学のことを指し、病(やまい)の理(ことわり)を読み解くための学問・分野です。もともとは病気の原因や成り立ちを研究する学問ですが、病院では、患者さんの体から採取された細胞、組織、臓器の標本を肉眼や顕微鏡を用いて調べることで、最終的な病気の診断(確定診断)を行います。当院では、病理診断を専門に取り扱う病理診断科がその業務を行っています。

治療の指針となる病理診断

病理診断を専門的に行っている医師を「病理医」といいます。当院には7人の常勤病理専門医が在籍し、内視鏡検査や手術などで採取された臓器から標本を作製・診断しています。

病変の一部を採取・検査する生検では、病気の種類や悪性度を診断します。例えば、採取した細胞ががん細胞であれば、がんと最終確定診断され、治療方針が決定されます(写真1)。手術で取り出した臓器では、病変の種類や広がり、病変が取り切れているかどうかなどについて診断します。

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写真1 採取された細胞が、がん細胞かどうかを診断します

また、手術中に採取した臓器の一部を20分弱で標本作製・診断する術中迅速診断を行うことにより、適切な手術方法や適正な手術範囲の選択を行っています(写真2)。2人以上の病理医が診断および確認を行います(写真3)。

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写真2 手術中に凍結病理標本を作製し、術中迅速診断を行います
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写真3 毎日、複数の病理専門医による診断・確認を行っています

病理診断を支える最先端の医学研究

最近の医学研究によって、組織中にあるさまざまなタンパク質を検出する試薬が数多く開発され、これを使って組織の性質を客観的に診断する、免疫組織化学という方法を行うことが可能になりました(写真4)。この免疫組織化学によって、従来では診断の難しかった病変の診断、がんの原発部位の発見が容易となり、それに加え、適切な抗がん剤の選択も可能になりました。

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写真4 最新の免疫組織化学染色装置を2台導入しています

さらに、蛍光in situ hybridization(FISH)などの方法を用いて、遺伝子レベルの異常をコンピューターで検出・判定する最新機器を導入しました。この機器の導入は、国内では当院が初めてです。

病理診断によって可能となる治療の個別化

近年、がんの診療においては分子標的治療や、治療の個別化が広がりを見せており、従来の正確な組織診断に加えて、免疫組織化学による特定のタンパク質の発現の検索や、FISH法による特定の遺伝子の変化の検索の依頼が増えています。代表的なものとしては、乳がんや胃がんの治療指標になるHER2蛋白に対する抗体療法や、乳がんのホルモン受容体検査による内分泌療法の適応決定、肺がんや悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)など特定の遺伝子異常の有無による薬剤選択などがあります。

病理診断は、一人ひとりの患者さんのがんに効きやすい薬を選ぶ、オーダーメイド医療に重要な役割を果たしています。さらに、当科では、海南病院など他施設の標本の診断も行っており、地域医療への貢献を目指しています。

更新:2024.01.25