栄養管理が医療に果たす役割を教えてください

愛知医科大学病院

栄養部

愛知県長久手市岩作雁又

栄養って、やはり重要ですか?

栄養状態が悪くなると病気にかかりやすくなり、病気が治るのに時間がかかるようになったり、治らなくなったりします。感染症からの回復、抗がん剤や放射線の感受性、手術成績も栄養状態が大きく影響しています。したがって栄養状態を良好に保つことは、医療の最も重要な基盤です。

栄養状態の指標は、後述するように、いかに筋肉量を適度に保つかですが、たんぱく質だけを摂(と)っても筋肉は増えません。たんぱく質に炭水化物、脂質を含めた3大栄養素、さらにはビタミンや微量元素、食物線維などのバランスのとれた栄養摂取と適度な運動が重要です。

栄養状態を良くすることと、筋肉を維持することの関連はありますか?

最近、筋肉の衰えが「サルコペニア」という言葉で知られるようになり、注目を集めています。筋肉が衰えると活発に動くことが次第にできなくなり、生活の質が低下します。長く歩けなくなり、疲れやすくなります(図1)。さらに筋肉の衰えが進むと声がかすれたり、食べたものがうまく喉(のど)を通らず、誤嚥(ごえん)による肺炎を生じたりします。これらは筋肉が体を動かすという機能の直接的な障害により生じることですが、筋肉にはさらに重要な役割があります。

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図1 筋肉の衰えがもたらす悪循環により生活の質が低下し、病気にかかりやすくなります

筋肉はたんぱく質の重要な貯蔵庫で、筋肉の量が低下することは体のたんぱく質量の低下を意味します。人体の重要なほとんどの機能は、たんぱく質が中心となって行われているため、体の中のたんぱく質が不足するとさまざまな生体機能が障害されます。障害されると、傷の治りが悪くなったり、感染やがんに対する免疫力が低下したり、死のリスクが高まったりします(図2)。栄養状態を良くすることは、すなわち筋肉量を適度に保つことにつながります。

図
図2 体のたんぱく質が減ると免疫が低下し、臓器障害を引き起こし、死に至ります(大柳治正:栄養状態と生理機能,「コメディカルのための静脈・経腸栄養ガイドライン」(日本静脈経腸栄養学会),p.5,南江堂,2000を参考に作成)

注:過度に筋肉をつけても健康が向上するわけではありません。

食事で必要カロリーを摂ることは大切ですか?

一度低下した栄養状態、筋肉量を改善させることは簡単ではありません。元気な人でも年齢とともに筋肉は衰え、筋肉量は低下します。また、病気になったら栄養が身につかないことは、経験的にご存じかと思います。つまり高齢であることや、慢性あるいは重症な病気がある状態では、一度低下した栄養状態を回復することは難しく、不可能なことも少なくありません(表)。したがって、栄養状態を悪化させないように、予防することが重要なのです。

● がん
● 加齢
● 肥満
● 慢性腎不全
● 関節リウマチ
● エイズ
● 慢性閉塞性肺疾患
● 冠動脈疾患
● うっ血性心不全
● 副腎皮質ステロイド投与
(移植、自己免疫疾患)
● 肝硬変
● 糖尿病
● 大腿骨頸部骨折、股関節骨折
● 廃用萎縮
(脊髄損傷、長期臥床、無重力)
● 性腺機能不
表 栄養療法を行っても栄養状態の改善が難しい病気と原因です

食事で必要カロリーを摂ることができないと、自身の筋肉や脂肪を分解して、不足分を補おうとします。その結果、次第に痩(や)せて栄養不良になり、筋肉も衰えます。一度失った筋肉は、若く元気な人の場合、適切な栄養摂取と運動により回復できますが、前述のように、高齢で病気がある状態では回復は困難になりますので、栄養状態を悪化させないように、適切な栄養摂取と適度な運動を継続することが重要です。当院では栄養サポートチーム(写真)が、栄養管理の難しい患者さんのサポートを行っています。

写真
写真 栄養サポートチームのスタッフ

栄養管理は医療の基盤

栄養管理は医療の基盤であり、いかに栄養状態を良くできるかが、治療の成否にかかわってきます。国内の医療界では、栄養管理はあまり重要視されてきませんでしたが、近年、栄養管理の重要性が認識され、各病院で栄養サポートチームが誕生し、活動しています。当院では、栄養サポートに精通した医師、歯科医師、管理栄養士、看護師、薬剤師、臨床検査技師などの多職種でチームをつくり、患者さんの栄養管理に取り組んでいます。

更新:2022.03.16