乳がんの手術で乳房がなくなったり、リンパ浮腫になったりしても治せますか?
愛知医科大学病院
形成外科
愛知県長久手市岩作雁又
乳房の再建手術は、どのように行うのですか?
乳がんの手術には、乳房全体を切除する乳房切除術と、がんとその周りだけを切除する乳房温存手術があります。乳房切除術では元の乳房の形はなくなってしまうので、患者さんの希望によっては乳房再建を行います。乳がんの手術と同時に再建するのが1次再建、乳がんの治療が一段落ついてから再建を行うのが2次再建です。
乳房切除術では乳腺とともに乳房の皮膚の一部が切除されるので、再建するためには乳腺に相当する体積だけでなく皮膚も補う必要があります。その方法は大きく分けて2種類あります。1つは、シリコン製の風船(ティッシュ・エキスパンダー)で患部の皮膚を徐々に引き伸ばして余裕を作った上で、シリコン製の人工乳房(シリコンインプラント)を挿入して体積を補う方法(エキスパンダー/インプラント法)。
もう1つは患者さん自身の体のほかの部位(例えば下腹部)から皮膚と皮下脂肪(皮弁)を採取して、患部へ移植して形を作る方法(皮弁移植)です。前者は手術が比較的シンプルで、体への負担が少ないという利点がありますが、インプラントの形と同じような形の乳房しか作れない、やや固く、動かせないといった欠点があります。皮弁移植は非常に複雑で長時間の手術が必要となり、皮弁を採取したところも傷あとになりますが、元の乳房に近い、温かで軟らかい乳房を作ることができます(写真1)。
患者さんごとに再建に対する考え方が違うので、それぞれのニーズをよく踏まえた上で手術方法を選択します。また、乳房温存手術の後に変形が起こって気になる患者さんには、皮弁移植が有効な場合があります。
マイクロサージャリーは、どのような手術なのですか?
皮弁が移植した場所でも温かな組織として生き続けるためには、血液の循環が保たれていなければなりません。そのためには、いろいろな条件があるのですが、最低限、皮弁と体の間で動脈と静脈が1本ずつつながっている必要があります。このため、皮弁を採取した場所から遠くに移植するには、皮弁に血液を供給している血管を一旦切り離し、移植先の血管とつなぎ直すという作業をします。こうした血管の直径は1〜2mm程度で、顕微鏡で見ながら手作業で血管の切り口どうしを縫い合わせます(写真2)。このように顕微鏡で見ながら非常に細かい手術をすることをマイクロサージャリーと呼んでいます。マイクロサージャリーの発展により、体のいろいろな場所から患部へ皮弁などを移植して形や機能を再建することが可能になりました。
乳がん以外にも頭頸部(とうけいぶ)や四肢(しし)の悪性腫瘍(しゅよう)を切除したあとの再建、外傷ややけどによる変形の治療などに応用されています。
リンパ浮腫の治療で手術をすることがありますか?
乳がんに限らずがんの手術では、がんの近くのリンパ節に対して検査や手術をすることがあります。この手術の影響でリンパの流れが悪くなることがあり、リンパ液が滞(とどこお)ることによって腕や脚が慢性的にむくんでしまうのがリンパ浮腫(ふしゅ)です(手術とは関係なく起こることもあります)。
リンパ浮腫の治療の基本は、マッサージや圧迫といった理学療法ですが、マイクロサージャリーによってリンパ管を静脈につないで、リンパ液の流れをバイパスする(迂回(うかい)させる)という手術法(リンパ管静脈吻合(ふんごう))があります。腕や脚のリンパ管の直径は0.5〜1mm程度のことが多く、同じくらいの太さの静脈を探してつなぎます。手術の後も理学療法を継続する必要がありますが、むくみの改善や肌の質感の改善といった効果が期待できます(写真3)。
形成外科って何?
「体のカタチに関することすべて」、強いて言えばそれが形成外科の扱う領域です。ほかの診療科のように特定の臓器(呼吸器や消化器など)の診療をするわけではないので説明が難しいのです。体表のけが・やけど、顔の骨折、唇裂(しんれつ)などの顔の先天異常、手のけがや先天異常、あざ、皮膚や軟部組織の腫瘍、腫瘍切除後の再建、傷あとの治療、美容外科などが主な仕事で、手術が治療法の中心になりますが、レーザーや薬物治療なども使います。手術のテクニックから領域が広がることもあり、例えばマイクロサージャリーの応用で肝臓の動脈の再建を行ったりすることもあります。こうなるともうカタチも関係ありません。将来、3Dプリンターで臓器が作れるようになっても、人体に移植するときには血管をつなぐ必要があるので、形成外科の仕事になるのではないか、などと考えています。
更新:2024.10.18