認知症の症状、治療について教えてください

愛知医科大学病院

精神神経科

愛知県長久手市岩作雁又

認知症周辺症状とは何ですか?

認知症の症状は、記憶障害を中心とする中核症状と周辺症状とされる行動・心理症状(BPSD)に大別されます。当科は、認知症早期の患者さんだけでなく、すでに認知症と診断されているが、BPSDの対応がうまくいかない患者さんが受診される場合もあります。

BPSDには、興奮・幻覚・妄想(もうそう)といった動きの激しいものから、抑うつ・不安・アパシー(無気力)といった外観上目立たないものまで含まれます(図1)。BPSDに対する基本的な治療方針は、まず治療対象とする症状をしぼり、情報を集め、達成可能な目標を立て、目標達成後は介護者の労をねぎらい(患者さんにとっても有益です)、継続的に修正していくことです。本人・家族・環境の3方向から治療計画を立てていきます。

図"
図1 認知症の症状

薬を使わずにBPSDに対処する方法はありますか?

BPSD対処法の第1選択は非薬物治療(薬を使わない治療)ですが、環境調整と介護者の対応力の向上、2つの柱があります。例えば、アルツハイマー型認知症(AD)でみられる物盗られ妄想では、失くしやすい物の置き場所を決める、代用品で事足りることで安心感を与える、時には一緒に探す、興味を別の話題に向けるなどの工夫が必要です。また、デイサービスを積極的に利用することをお勧めします。日中の活動性が増大し、睡眠障害やアパシーが改善する可能性があり、見捨てられ妄想のある患者さんの孤独感、疎外感を軽減するといった効果が期待できます。

幻視や転倒の多いレビー小体型認知症(DLB)の介護では、室内の見通しを良くする、照明を最適化する、段差や室内に置いてある物を少なくするといった環境整備が望まれます(図2)。

図
図2 認知症治療の流れ

BPSDに有効な薬物治療はありますか?

非薬物治療で症状が軽減しない場合は、精神神経科を受診してください。まずは鑑別診断を行い、次に薬物療法に耐えうる身体機能を有しているかを素早く評価します。外来治療を基本としますが、認知症の重症度、持病、生活環境、介護負担度に応じて慎重に入院治療も検討します。コリンエステラーゼ阻害薬は、AD症例の中核症状の進行抑制だけでなく、BPSDのうち、抑うつ・不安・アパシーに有効です。投与初期・増量時に易怒性(いどせい)(怒りやすいこと)が出現することがあり、注意が必要です。興奮・妄想・幻覚が目立つ場合は、NMDA受容体拮抗(きっこう)薬であるメマンチンが有効な場合が多いですが、眠気・眩暈(めまい)・便秘などの副作用が現れることがあります。

ADとよく似た記憶障害があるものの、抑うつ、幻視、妄想などの精神症状が目立つ場合は、DLBを疑う必要があります。診断基準にも示されていますが、DLBではADと異なり、頭部CT/MRI検査で側頭葉内側の萎縮所見は少なく、脳血流シンチ(SPECT)では後頭葉の血流低下(写真1)、MIBG心筋シンチでは心筋での集積低下(写真2)がみられます。DLBの幻視には保険適用のある、塩酸ドネぺジルが有効です。基本的には保険適用のある認知症治療薬をまず選択しますが、これらの治療薬ではBPSDの症状を十分に抑えきれない場合もあり、その際は少量の抗精神病薬や漢方の投与を行います。認知症患者さんに抗精神病薬を投与するときには、FDA(米食品医薬品局2005)の警告や日本老年精神医学会(2014)の注意喚起などがあることを事前に説明します。そして、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)や心血管系疾患の発症リスクがあり、常にリスクと治療効果を考慮して治療にあたることをお伝えしています。転びやすい、むせやすい、日中の眠気が強いなどの症状があれば、薬剤の減量・変更が必要となりま(図2)。

写真
写真1 脳血流シンチ(SPECT)
写真
写真2 MIBG心筋シンチ

2015年厚生労働省が示している『かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版』に示されている非定型抗精神病薬の中でも、鎮静効果の強い薬剤、糖尿病患者さんに禁忌な薬剤などが含まれているため、注意が必要です。

また前述のDLBの患者さんでは抗精神病薬の副作用が強く出やすいという特徴があるため、精神症状の治療に難渋することが少なくありません。このような場合では、修正型電気けいれん療法が有効で、精神症状、うつ症状、パーキンソン症状が改善する可能性があります。

レビー小体型認知症(DLB)の特徴

・初期症状
記憶障害が目立たない場合がある
嗅覚障害、高度な便秘、転倒や失神、うつ症状、妄想が目立つ場合がある

・典型的症状
1日の間でも変化・変動する認知機能障害
リアルで具体的な幻視
パーキンソン症状(手の震え、小刻み歩行など)
レム睡眠行動異常(悪夢を伴う大声や体動)

・診断に必用な検査
頭部MRI
脳血流シンチ
MIBG心筋シンチ
ダットスキャンなど
(日本認知症学会『認知症テキストブック』を参照)

更新:2022.03.14