急速に需要が増えている脳血管内治療

愛知医科大学病院

脳血管内治療センター

愛知県長久手市岩作雁又

寝たきりにさせない

脳卒中は寝たきりになる原因の筆頭で、大きな社会問題となっています。特に、心臓から大きな血栓(けっせん)が脳血管に詰まる脳塞栓症(のうそくせんしょう)は、重篤な後遺症が残り、寝たきりになる危険性が最も高い病気です。以前は、t-PAという薬を使って血栓を溶かしていましたが、これで血管を再開通できない場合には、カテーテルという細い管(くだ)を血管の中に入れ、網のようなもので根こそぎ取り除く「血栓回収療法」という治療を行います(写真1)。これによって8割以上の患者さんの再開通に成功し、4割近くの人が元の生活に戻れるようになっています。

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写真1 脳塞栓により詰まった中大脳動脈(左:矢印)から血栓を除去して、完全に再開通しています(右)。右下は回収された血栓

また、死亡率が5割という最も恐ろしい脳卒中であるクモ膜下出血は、大部分が脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)の破裂で起こります。一旦破裂した脳動脈瘤を放置すると、8割以上が再破裂します。動脈瘤を治療する方法は、頭を切り開いて瘤(こぶ)の部分にクリップをかける手術が主流でしたが、現在は、コイルという金属の糸を血管の中から瘤の中に充填(じゅうてん)して再破裂を防ぐ方法が、体に対してやさしいということで急増しています(写真2)。

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写真2 脳底動脈の破裂動脈瘤(左:矢印が破裂点)に対し、コイル塞栓術を行い閉塞しました(右)

脳卒中にさせない

脳卒中は、「中(あた)る」という言葉通り突然やってきます。そうなったときに患者さんを救う方法は前述しましたが、そもそも脳卒中にならないのが一番です。脳動脈瘤も未然に処理しておくことで、破裂を防ぐことができます。最近、脳ドックで発見されることが多くなってきた未破裂脳動脈瘤ですが、大きな動脈瘤は破裂率が高いので、根治的治療(原因となる病変そのものを取り除き、完全に治すこと)が必要です。前述のようにコイルを入れて動脈瘤を塞(ふさ)ぐ以外に、最近は、メッシュの筒(ステント)を入れて血液の通り道を作り、動脈瘤への血液の流入を遮断することで、瘤を自然に固めて血栓化させる方法もあります(写真3)。

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写真3 巨大内頸動脈瘤(左)にフローダイバーターという網目の細かい特殊なステント(中央:矢印)を置きました。半年後に動脈瘤内の血液は固まって、造影検査でうつらなくなりました(右)

また、近年は欧米型の食生活が発症原因の1つにもなっている動脈硬化により、脳に向かう血管が細くなってしまう人が増えています。特に内頸(ないけい)動脈という重要な血管が狭くなると、脳に血液が行かなくなって脳梗塞(のうこうそく)をきたす危険性が高くなります。以前は、症状が出てしまう前に血管を広げるための治療として、首の前を切開して血管を露出し、血管の掃除をする手術をしていましたが、最近はステントという金属の網でできた筒を入れて、血管の中から形を整えます(写真4)。この治療は、足の付け根からカテーテルを入れて1時間ほどで終了するため、首に傷が残ることもありません。

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写真4 内頸動脈高度狭窄(きょうさく)(左:矢印)に対して、ステントを留置し、良好な拡張が得られています(右)

オールラウンドな治療実績

脳卒中に関連するさまざまな分野で用いられている脳血管内治療には、発症急性期の緊急手術と発症を防ぐための予防的治療があります。当院では救急体制の充実と、さまざまな疾患に対する豊富な治療経験から、あらゆる疾患に対応できる体制があります(図)。動脈瘤と脳􄼷塞の予防的治療が柱となってはいますが、血管奇形や脳腫瘍(のうしゅよう)についても積極的に血管内からのアプローチを行っています。

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図 脳血管内治療経験症例数(名古屋大学医学部附属病院、大阪医科大学附属病院での症例も含む)

エキスパートが最適な治療を提供

当院には、脳血管内治療指導医1人、専門医2人がおり、限られた施設でしか認められていない「写真3」のような最新の脳血管内治療を行うことが可能です。

2017年、この治療に特化した「脳血管内治療センター」を立ち上げ、治療時に使用する血管撮影装置も新しく導入し、若手も含めた全員で患者さんをサポートできる体制が整いました。特に無症候性(症状のない)病変に対する予防的治療においては、治療適応と患者さんの意思を尊重し、治療を強要することなく、一緒に病気に向き合っていくポリシーで臨んでいます。多くの経験の中から得られた治療リスクの的確な把握に基づき、最良で安全な治療法を提供できるように日々努力しています。

更新:2022.03.14