児童思春期病棟の紹介:入院生活を通して、長期的によりよい育ちをサポート

肥前精神医療センター

精神科

佐賀県神埼郡吉野ヶ里町三津

児童思春期病棟の紹介:入院生活を通して、長期的によりよい育ちをサポート

家庭や学校などの生活の中でさまざまな困難を抱えているお子さんを、入院生活を通して見立てを行い、薬物治療だけでなく、個別、集団療育を通してよりよい成長のお手伝いをします。

入院治療について

当院の療養介護病棟では、医療型短期入所を行うことができる施設になっています。お住いの自治体が医療型短期入所や療養介護の支給が可能と判断したケースで利用することができます。もし、福祉のショートステイを利用したいけれども、利用できる福祉施設が見つからない場合は、お住いの地域の総合相談窓口や、役場の担当窓口、発達障害者支援センターなどにご相談されてみてはと思います。

入院治療の適応

命の危険性がある、もしくは日常生活が送れないほどの状態になった場合は入院を検討しますが、それぞれの家庭事情やお子さんの状態があるため、外来で話し合い、入院の目的や期間を決めていきます。そのお子さんの全ての問題が入院で解消されるわけではないため、退院後の生活が安定して送れるよう入院中に積極的にケースワークを行い、その子のよりよい育ちを長期的にサポートしていきます。

入院治療の目的

入院治療の目的はさまざまですが、例を挙げると以下のようなケースがあります。

①評価・薬物調整:
入院することでより診断や薬物調整をしやすくなることもあります。日々の生活の中でのそのお子さんの状態、変化を観察し調整していきますので、数か月かかることが多いです。
②休養・生活リズム改善:
疲弊し、うつ状態になっているお子さんも多く、その場合は入院をすることで休養がとれることもあります。また、自宅生活では昼夜逆転などの生活パターンを変えることが難しくても、入院して規則正しい生活を送ることで、生活リズムを元に戻すきっかけにするお子さんもいます。そのお子さんの状況や希望によりますが、数週間から数か月程度の入院を行います。
③心理教育:
ゲーム症などの心理教育目的で入院を希望される時に数週間程度入院することもあります。
④命の危険を守るための入院:
死にたい気持ちが高まり、自殺企図など命の危険があると判断される時、命を守るための入院を行うことがあります。
⑤統合失調症などの治療:
統合失調症、もしくはその類似症状を疑う場合があります。この状態になると、混乱が強く、食事や睡眠がとれなくなり、日常生活が送れない状態になることがあります。入院していただき安全を確保しながら、状態を評価し診断、薬物治療につなげます。
⑥強迫症 摂食障害などの治療:
これらの疾患も重度になると日常生活が送れないような状態になることがあります。その場合は入院して頂き、行動療法を使った治療を行うこともあります。
⑦人間関係の練習のための入院:
不登校などの状態の背景に、繰り返された挫折体験から「人や学校が怖い」「自分はダメな人間だ」と外への恐怖心や無力感を強く持っているお子さんは多いです。そのお子さんが「自分を変えたい、成長したい」と思ってくれるようになった段階で小集団の中で上手に遊べるようになるための練習を入院で行うこともあります。期間は数か月から半年くらい入院されることもあります。当院には小・中学生対象の中原特別支援学校の訪問教育がありますので、その間、転校して「学校にまた行ってみる」という経験を積んでいただくこともあります。

A君 14歳のケース

小さいころからマイペースでおとなしく、集団内でトラブルになったことはない。中学校に進学後、特にいじめを受けたわけではないようだったが、徐々に朝起きられなかったり腹痛を訴えることが増えた。休むと腹痛は改善した。体育祭のあとから完全に不登校となり、昼夜逆転し、自室にこもって寝ているかゲームをするかで食事や入浴も不規則となった。心配した家族に連れられ当院を初診した。面接場面でA君は「(学校に)行かないといけないとわかっているけど朝になったらお腹が痛くなったり、体が動かなくなる」と暗い表情で語った。その後当院に通院を開始し、A君への接し方を親御さんも学んでいく中で徐々にA君も元気になっていき、家族と一緒であれば外食もできるようになった。その中で「行きたいけど学校に行くのはまだ抵抗がある」「外に出たり同世代の子を見ると緊張する」などと語るようになった。そのため、本人と①生活リズムを立て直す②小集団の中で程よい距離感で過ごす練習③困ったら大人に相談する練習などの目的を決め、児童思春期病棟に入院することになった。

初めは慣れない環境で寂しく、泣いて帰りたいと話すこともあったが、親御さんのサポートもあり、入院を継続することができた。スタッフは頻繁な声掛けをし、きついときに気分転換ができるようにA君と一緒に工夫をしていった。その後療育活動に参加する中で徐々にゲームを通して他の男子と関わるようになり、数人で楽しそうに遊ぶ姿が見られるようになった。日中の活動が充実していくと夜もぐっすり眠れるようになっていった。しばらくすると、そのゲーム仲間のB君がA君からゲーム機を借りてしていることが他児の情報で発覚した。病棟には"物の貸し借りをしない"というルールがあったがA君は断れず、B君がエスカレートしていったようだった。A君に話を聞くと「初めはちょっとだけだったのでいいかなと思っていたが徐々にエスカレートした。断ろうと思ったが、一緒に遊んで楽しい時もあるしチクったと言われるのが怖くて言えなかった」という。スタッフはA君のきつかった気持ちに寄り添いつつ、一緒に対策を練った。A君はホールで他児と一緒にゲームをすることが楽しく、それはやめたくないようだった。B君は他児がいないところで要求してくることが多いことからA君はできるだけスタッフの目がある場所で過ごすようにすること、自室で過ごすときは他児が訪室することを禁止する「休憩中」カードを貼ることにした。また、しつこい場合はスタッフに相談に行くことをA君は頑張ってみることになった。療育の中でもスタッフはA君が適切な自己主張ができるよう、援助していった。同時にB君の担当スタッフもB君への介入を始めた。これらの取り組みの中で徐々にA君は困ったらスタッフに相談することも増え、自分の力で少しずつ危険を回避したり、他児に主張することができるようになっていった。退院の話が出てくる頃には本人も学校外の居場所に行ってみてもいい、と言うようになった。ケースワーカーと見学や体験を行ってもらい、外出や外泊を繰り返し、入院から半年ほどたった頃A君は退院となった。退院後は通院を続けながら、適応指導教室を利用。徐々に頻度や利用時間を増やし、現在は毎日朝から通所し、最近は少しずつ学習にも取り組むようになってきている。

もともとA君は集団の中で受け身であり、自分を守るためのラインの理解や適切な自己主張をすること、困ったときに大人に相談することなどが今までの生活の中でうまく獲得できていなかったと思われます。このようなお子さんは一見周囲からは"普通に過ごせている"と見られがちです。しかし集団の中で自分を守るための「NO」や困ったときに大人に相談する「HELP」が出せないと、子どもは集団の中でのきつさが積み重なり、思春期の時期に不登校という形で表れてくることがよくあるのです。

児童思春期病棟の歩み

昭和57年に、当院が児童思春期の情動行動障害に対する国立病院機構基幹施設に指定されたことを受けて、情動行動障害センターが開設されました。同センターの開設を機に児童精神科部門が正式に発足し、以来、当院では、20年以上にわたり主に行動療法的な観点からの児童精神医学の臨床実践・研究・研修を行ってきました。当病棟では、病状が比較的安定した高齢の成人患者さんと一緒に、家庭の中での生活が困難になってしまった子どもたちへ治療を行ってきました。また、院内に佐賀県立中原養護学校(現:中原特別支援学校)の訪問学級を設置し、学校に復帰するための支援も行ってきました。

平成19年7月、より専門的な質の高い医療を提供するために、当病棟は20歳未満の子ども中心の定数30名の児童思春期病棟として生まれ変わることになり、名前も新たに「つくし病棟」と名づけました。不登校や引きこもりなど幅広いタイプの患者さんに対応するための工夫を行っています。なお、平成26年、3月末に新病棟へ移転し現在、定床数は40名となっています。

児童思春期病棟の治療環境について

佐賀県内唯一の児童思春期病棟として、未就学から20歳未満の患者の入院を受け入れています。病棟の特徴として、病棟の構造を急性期・回復期・社会復帰期の3つのゾーンに分け、患児の疾患や特性に応じた環境を提供し、治療・看護を行っています。また、行動療法を基盤にした行動の構造化(どう動けばいいか、何をしたらいいか、文字や絵を用いて提示すること)を行いながら、強化子(ある行動をもっととりたくさせる刺激のこと)を用いてのルール確認を行い、自己効力感の向上など多職種が専門性を生かし、子どもの自立に向けた支援を行っています。入院時から退院後の生活を見据え、家族や児童相談所、支援学校、行政などの関係者との会議の機会を多く設け調整に努めています。また、入院中でも小中学生の子どもたちが学べるように、佐賀県立中原特別支援学校の訪問教育部と連携し、継続的な教育が受けられる学習環境を整えています。入院中でも訪問学級での学習支援を行うことで退院後の学校復帰に向けた支援を行っています。

表
表:病棟の一日の流れ

治療プログラムと活動(療育)

自閉スペクトラム症などの発達障害を抱える子どもたちの中には、他者とのコミュニケーションがうまくできず対人関係に悩みを抱えていることがあります。そこで、対人関係やコミュニケーションの向上を目的に、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング:社会生活に必要な対人関係などを身につけるプログラム)やコグトレ(コグニティブトレーニング:「覚える」「数える」「移す」「見つける」「想像する」を伸ばすトレーニング)を取り入れた治療プログラムを作業療法士、心理士、看護師、保育士と協働し行っています。活動は、個別活動、小集団活動(2~4人程度)、大集団活動(5人~10人程度)を、子どもたち個々の障害特性や発達年齢、治療段階に応じて行っています。また、子どもの成長発達には、遊びが不可欠です。子どもたちは、遊びながらたくさんのことを学び、成長していきます。子どもの遊びは、発達段階に伴って変化します。そのため、活動(療育)においては、保育士が中心となり、未就学児や小学生などの発達段階に応じた創作遊び(ビーズ細工、木工細工)や体操、ゲームなどを取り入れた活動(療育)を行っています。

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学習室
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病棟ホール

ゲーム障害プログラム

昨今、ゲーム障害による心身の障害の事例が多数報告され、インターネットやゲームの依存的使用度が社会的に重大な問題であると指摘されています。2018年には、WHO(世界保健機関)もゲームの過剰な利用で日常生活が困難になる「ゲーム障害」を依存症の一つとして認定しており、インターネットゲーム障害の好発年齢である児童期からの予防的介入が特に求められています。現在、子どもたちの学習環境においても、コロナ感染症流行の影響もありICT教育が推進され、タブレットなどのデジタル端末を利用した在宅学習やコミュニケーションツール、娯楽手段としての正しい側面もある一方で、依存的な側面も見逃せない状況もあります。家庭でのインターネットやゲームの利用時間が伸びがちとなり、それらの依存的使用にさらにつながりやすくなることも懸念されています。そこで、子どもたちが、インターネットやゲームと上手に付き合うために【ゲーム障害プログラム】を中心とした治療プログラムを行っています。また、入院中から子ども外来と連携した治療プログラムや家族教室を行っています。

他機関との連携

自閉症スペクトラム症などの発達障害を抱える子どもの治療は、その子どもを取り巻く環境を調整していくことが大切なことなので、地域機関(児童相談所・保健所・学校など)とも連携をとりながら、子どもだけではなく、その家族全体を支える仕組みづくりを重要視した治療に努めています。

更新:2026.08.14