依存症治療病棟の紹介:回復に向けての試みを支援する
肥前精神医療センター
精神科
佐賀県神埼郡吉野ヶ里町三津

依存症は、完治は難しくても回復はできる病気です。百人いれば百通りの回復があります。
その人らしさを大切に、多職種・他機関の支援者とともに支援しています。
当院の依存症治療病棟の変遷
当院の依存症治療病棟(南1病棟)は依存症治療の他、精神疾患の急性期治療、ストレスケアを行っています。従って、アルコール・薬物・ギャンブルなどの依存症の方と統合失調症や気分障害、自閉症スペクトラム症の方などの疾患の方が入院しています。病床数は60床で男性、女性ともに入院している開放病棟(日中は病棟入口に鍵がかかっていない、原則出入りが自由な病棟)です。
当院の依存症治療の変遷について話します。
まず、1983年にアルコール依存症の治療を開始しています。当時から依存症治療の入院期間は10週間でした。その後、薬物依存症の治療を1995年に開始しました。当時対象となった患者さんである覚醒剤使用者もシンナー使用者も10代~20代の若年層がメインでした。若者にとって3カ月近い入院期間は難しいだろうとの考えで、入院期間は4週間でした。2011年に院内病棟再編成があり、それまで分かれていた男性と女性の依存症病棟が合併し、男女混合病棟となりました。2014年になって依存症治療プログラムを見直しました。それというのも、この頃になるとシンナーの流行が衰退し処方薬依存が多くなりました。薬物依存症の患者さんの年齢層が上がってきたこともあり、薬物依存症治療も10週間の入院期間としました。同じ年に、新病棟が完成し、現在の場所に移転しました。依存症治療は、アルコールや薬物などのへの物質依存がメインでしたが、ギャンブルや摂食行動、性行動などへの依存にも焦点があたるようになりました。その中で、ギャンブル依存症の治療ニーズが高まり、2017年にギャンブル依存症治療プログラムを開始しました。依存症の概念は、拡大し続けています。入院治療では性の問題や買い物依存などの対応が難しいのですが、外来では治療されています。近年は、WHO(世界保健機関)の診断基準にゲーム障害が掲載され、ゲームで困っている患者さんへの支援も開始しています。
当病棟では、患者さんが休養し、身体的・精神的・社会的に回復し、早期に再び社会に戻ることができる支援に努めています。

患者さんの寛ぎの場です

こちらで将棋やオセロを楽しんでいます
入院治療プログラム
アルコール・薬物の離脱症状や身体合併症の治療を行い、各依存症の教育プログラムを実施しています。リハビリテーションプログラム(RP)の先頭にアルコール(Alcohl)、薬物(Drug)、ギャンブル(Gamble)をつけてそれぞれARP、DRP、GRPと呼んでいます。プログラムでは、疾患の正しい知識を提供し、断酒・断薬・脱ギャンブルの利点、やめ続けるために必要なこと、3本柱(アルコール依存症であれば抗酒剤、自助グループ、外来通院)を実践することについて学んでもらいます。入院治療の期間は10週間です。依存症は自覚しにくい疾患であるため治療につながりにくいという特徴があります。治療のハードルを下げるために、近年は断酒だけでなく減酒・節酒などのソフトな目標も取り入れられています。患者さんが自分自身で健康的な生活に取り組めるように受け持ち看護師を中心に多職種で支援しています。それぞれの依存症の治療の流れを示します。
1:アルコール依存症
入院し、飲酒を中断すると、それまでアルコールに慣れていた体内の均衡が崩れ、離脱症状が起こります。断酒1日目あたりで早期離脱症状として手の震えや大量の発汗、漠然とした不安感などが出現します。早期離脱症状が落ち着いていても、離脱せん妄といわれる後期離脱症状が出現する患者さんがいます。後期離脱症状は断酒2、3日目より時間、場所、人がわからなくなったり、小さい虫が壁を這っているような幻視が出たりします。実際にはないテレビでゲームをする方や飲食店に来ている感覚になる方もいます。この後期離脱症状が出現するとご自分の身の安全の確保が困難になるため、医師に報告し入院形態を変更することがあります。離脱症状以外にも栄養障害による機能障害を起こしていることがありますので入院3日目くらいまでは電解質やビタミン剤が入った点滴治療を行います。
入院後1週間経ち、身体状態が落ち着いたら学習会やミーティングなどの教育プログラムに参加してもらいます。当院のプログラムは、運動療法や創作活動などの作業療法とともに看護師が実施する学習会や多職種で行う勉強会やミーティングなどで構成しています。南1病棟でアルコール依存症診断の入院患者さんは常時20名~30名ほどいます。大勢の人が苦手な患者さんもいますので入院患者さん全員が参加することはありませんが、15名程度の患者さんが集団プログラムに参加します。
プログラムには、月に一度、病院近くの仁比山公園や百年記念塔までのハイキングもあります。入院当初は点滴が必要なほど弱っていた体が、食事と睡眠と日中活動により回復し、往復10km以上のハイキングができるようになります。また、学習会やミーティングなどで自分自身のことを話したり、他の患者さんのお話を聞くことで、健康への意識が高まるとともに一緒に取り組む仲間づくりができます。体だけでなく心の回復も実感できると思います。



退院が近くなってくると、自宅での生活や仕事などが現実味を帯びてきて、飲酒生活に戻ってしまうのではないかなどの不安が出てくることが多いです。退院後の生活を安心して送ることができるよう、ストレス対処方法や不安が強まったときの相談先、日中の活動、経済的な社会資源などについて、多職種でご本人やご家族への支援を行います。
アルコール依存症の自助グループであるAA(アルコホーリクス・アノニマス)、断酒会のメンバーさんに協力してもらっています。病院近隣の断酒会とAAの参加への支援、病棟内でのミーティング開催をしてもらっています。
2:薬物依存症
処方薬や市販薬は身体依存があるため、断薬をすることで離脱症状(不安感の増強、手の震えなど)が出現します。安全に離脱ができるよう身体観察をしながら薬剤調整を行います。覚醒剤や大麻などは身体依存が少ないと言われており離脱症状の出現はほとんどありません。しかし、どの薬物でも依存的な使用によって、日常生活に支障を来し、対人関係・人間関係がうまくいっていないことがほとんどです。対人関係・人間関係が困難な生活の中で、薬物に依存するしかなかったとも言えます。入院初期は、食事・睡眠を十分に確保し生活リズムを規則正しく整えます。
体調が整えば入院翌日から教育プログラムに参加できます。アルコール依存症の患者さんと合同での学習会やミーティングがありますが、大半は分かれています。南1病棟で薬物依存症の入院患者さんは数名程度です。看護師とともにエクササイズをしたり喫茶活動をしたりします。少人数でお喋りをして、体を動かして、安心して他者と関係を築くことを体験してもらいます。
薬物依存症の自助グループに、NA(ナルコティクス アノニマス)や、回復支援施設DARC(ダルク)がありますが、それらの団体のメンバーにもプログラムに参加してもらうなど、協力してもらっています。
3:ギャンブル依存症
日本では、遊戯といわれるパチンコ・スロット、公営ギャンブルである競馬・競輪・競艇が賭博先になっています。近年では、インターネットの発展とともにオンラインカジノを利用する人々が増えています。最初は小遣い稼ぎや遊びとしてギャンブルをしていたつもりが、負けても次は勝てる、借金をしても次に勝って返せばいい、などの意識になってしまい借金を重ねてしまいます。数十万ではなく、数百万、数千万円の借金を抱えて本人だけでなくご家族も含めて困り果てた状態で相談に来られます。
債務整理の情報提供、本人の金銭管理、ギャンブルに頼らない生活の方法などについて本人だけでなくご家族、多職種で検討していきます。ギャンブル自体が身体に及ぼす影響は少ないので、合併症がなければ入院翌日から活動への参加ができます。南1病棟でのギャンブル依存症の患者さんは数名程度ですが、10年前に比べると、近年は入院される方が多くなっています。アルコール依存症の患者さんと同じプログラムに参加してもらいますが、不定期での個別もしくは小集団でギャンブル依存症のプログラムに入ってもらいます。
ギャンブル依存症の民間自助グループは、GA(ギャンブラーズ・アノニマス)があります。GAメンバーさんに毎週、メッセージミーティングをしてもらっています。
ご家族への支援
依存症は関係性の病とも言われており、家族など周囲の人々を巻き込みます。本人の依存問題によって起きた不具合を家族が尻ぬぐいをしたり、叱責を繰り返したりして家族は気分転換などの時間を持つことができず本人中心の生活になってしまいます。悪循環なコミュニケーションスタイルになってしまい、家族が意図せずに本人の依存行動を促進してしまうことがあります。また、本人の依存問題を家族だけで抱え込んでしまい、孤立していることがあります。そのようなご家族が安心して話し、本人の対応について相談できるよう私たちは支援しています。
当院では家族教室と家族会を行っています。家族教室では、依存症という病気のメカニズム、家族が巻き込まれてしまう病気であること、望ましいコミュニケーションスタイルなどについて学び、本人への具体的な対応方法を考え、練習します。家族が、本人中心の生活でなく、自分を大切にできる生活を送ってもらうことをスローガンとしています。家族会では、家族同士が本人にまつわる体験や近況を話し合います。言いっぱなし、聞きっぱなしのスタイルなので、他の場所では話せないことも家族会の場では話すことができ、気持ちが楽になるご家族が多数います。家族会においても、依存症のご家族の自助グループ、断酒会、AL-Alon(アラノン)、Nar-Anon(ナラノン)、Gam-Anon(ギャマノン)などのメンバーに協力してもらっています。
個別で調整が必要な内容については、主治医、受持ち看護師、ケースワーカーなどが個別でご家族のお話を聞き支援します。
退院後の支援
入院中はアルコール、薬物、ギャンブルから距離を置くため安全に過ごすことができますが、退院後は身近な環境になり、学習し練習した方法を実践することが大切です。規則正しい生活、自助グループの利用、定期的な通院が依存行動の歯止めになります。外来では通院精神療法の他に、依存症ミーティングを行っています。女性ミーティングと外来ミーティング、薬物依存症の患者さんを対象とした薬物ミーティング(SHARP)があります。外来受診と併せて参加されることが多いです。近況について話し合い、健康的な生活を意識できる場となっています。女性ミーティングでは、男性がいると話しづらい女性特有の悩みを話すことができます。
最後に
依存症は慢性疾患です。再発と回復を繰り返すことが多い病気です。1回の入院で完全によくなることはありません。入院し、断酒、断薬、断ギャンブルの動機付けができ、健康な生活を送るきっかけとなるような支援に努めています。
更新:2026.08.14
