精神科薬物療法:精神科の「おくすり」の基本

肥前精神医療センター

精神科

佐賀県神埼郡吉野ヶ里町三津

精神科薬物療法:精神科の「おくすり」の基本

精神科の薬に関する情報、薬と日々の生活について考えるためのヒントをお伝えします。

精神疾患の治療の基本とは

まず初めに、精神疾患の治療は薬物療法のみでできるものではありません。生物学的治療(薬物療法、電気けいれん療法など)、心理療法や精神療法、社会的介入の三つを組み合わせて行います。主治医は疾患に有効な薬を処方し、その患者さんに合う心理療法や精神療法を行い(認知行動療法や一般的な通院精神療法など)、患者さんの環境調整に必要なアドバイスなどを行います。それぞれの精神疾患や障害によって3つのバランスは変わりますが、それらを組み合わせて行い、患者さん自身の回復力(レジリエンス)を高めることを目指しています。その際に多職種チームで治療を行うのも特徴です。医師だけでなく、看護師、心理療法士、ケースワーカー、リハビリスタッフ(作業療法士や理学療法士、言語聴覚士)、薬剤師、入院治療の病棟によっては療養介助専門員や保育士、児童指導員など、さまざまな職種が専門性や強みを生かして関わります。薬に関しても、さまざまな職種のスタッフが患者さんの自覚的な「飲み心地」や副作用で心配な点を伺ったり、身体の状態を一緒に見ていったりする機会があるのです。

治療内容については、主治医と患者さんが共同で意思(方針)を決定することが大切です。薬物療法についても、処方される薬の効果や副作用を、きちんと主治医から説明してもらうとよいでしょう。そして、症状が軽くなったり改善したりした後に、日々の生活をどのように過ごすことが目標なのかを、しっかり主治医や支援者と話し合っておきましょう。その際には会話による話だけでなく、いろいろなシートを用いて(クライシスプランシートなど)情報や治療目標を共有する方法もありますので、ぜひ活用してみましょう。

向精神薬の分類

向精神薬(精神科で用いられる薬)にはいくつかの分類と適応となる疾患・症状があります。例えば、抗精神病薬(統合失調症の治療薬で幻覚や妄想に効果がある)、抗うつ薬(うつ病や不安症の治療薬で抑うつに効果がある)、気分安定薬(双極性感情障害の治療薬で躁状態やイライラ、うつ状態に効果がある)、抗不安薬(不安症や神経症の治療薬で、不安や強迫症状などに効果がある)、睡眠薬(不眠症の治療薬)などです。このほかにも、抗認知症薬、依存症治療薬、抗ADHD(注意欠如・多動性障害)薬、子どもの自閉スペクトラム症に伴う易刺激性(いしげきせい)(些細な刺激に過剰に反応してしまうこと)に効果がある抗精神病薬、子どもの神経発達症の不眠に効果がある薬、などもあります。それぞれの分類の中にも、効き方が違ういくつもの種類の薬があるので、主治医の説明だけでなく、薬の説明用紙(薬剤情報提供書)や薬剤師の説明など、いろいろな情報を聞いてみることをお勧めします。ただしインターネットの情報には間違った内容も含まれることがあるので、注意して見るようにしましょう。

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以下に主な種類の向精神薬を説明します。また、それぞれの疾患ごとのページもご参照ください。そしてどの疾患・障害でも、薬物療法以外に心理社会的介入と言われるさまざまな非薬物療法が重要であることを、再度強調しておきたいと思います。

抗精神病薬

抗精神病薬は主には「ドパミン」という神経伝達物質の過剰による、幻覚や妄想、興奮などの精神症状を整える薬です。その他の神経伝達物質も調節することで、興味関心や意欲低下の改善、再発予防なども期待され、種類によって効き方の特徴があります。

効き方の特徴により、第一世代抗精神病薬(定型)と第二世代抗精神病薬(非定型)とに分けられ、最近では錐体外路(すいたいがいろ)症状という神経系の副作用が少ない第二世代の薬がよく用いられるようになっています。また抗精神病薬の中には気分障害(双極性感情障害)に有効なものもあります。

抗精神病薬による薬物療法については、「統合失調症」「気分障害」の項目も参照してみてください。

抗うつ薬・気分安定薬

抗うつ薬は主には「セロトニン」「ノルアドレナリン」という神経伝達物質の働きを調節して、抗うつ効果や抗不安効果をもたらすくすりです。それぞれの伝達物質への作用の違いによって、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、S-RIM(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬など、さまざまな種類があります。抗うつ効果が発揮されるのには数週間を要し、その前に消化器症状や、不安・焦燥などの賦活(ふかつ)症候群(アクチベーション症候群)といった副作用が出現することがあるので、注意が必要です。抗うつ薬に関しても、古典的な薬(三環系抗うつ薬)は口渇や便秘、過量摂取による致死的不整脈などの副作用を呈しやすく、重症うつ病や夜尿症などへ限定的に使用されるようになってきています。

抑うつ症状と躁症状の両方が見られる(双極性感情障害)場合は、気分安定薬として炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンなどが用いられます。ほかにクエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール、ルラシドンなどの第二世代抗精神病薬も双極性感情障害の症状改善に効果があると言われています。

抗うつ薬や気分安定薬による薬物療法については、「気分障害」 「不安症」 「強迫症」の項目なども参照してみてください。

抗不安薬

抗不安薬は、主には「ベンゾジアゼピン受容体」に作用することで、不安を軽減させる薬です。速やかな効果が期待される一方で、依存や耐性が生じやすい、急に中断すると離脱症状が出る、などの注意点がある薬です。他にもふらつきや健忘・せん妄などの副作用のリスクがあるので、用量や種類を増やし過ぎないよう、主治医とよく相談しましょう。ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、他にもいろいろな神経系に働くことによって睡眠薬、抗てんかん薬、筋弛緩薬としても使用されます。

抗不安薬による薬物療法については、「不安症」 の項目なども参照してみてください。

睡眠薬

睡眠薬は、古くはベンゾジアゼピン受容体作動薬が中心に処方されていた時代から、異なる働き方をする、主に3種類の薬剤から選択できる時代になりました。ベンゾジアゼピン受容体作動薬は依存や耐性の問題が生じやすいので、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬、といった他の2種類の睡眠薬が使用されることが増えています。

睡眠薬による薬物療法については、「睡眠障害」 の項目も参照してみてください。まずは「睡眠衛生指導」と言われる、身体・環境・心理的な不眠の要因を取り除くことの重要性が述べられています。

薬の効果や副作用を主治医と共有するために

治療の目標を主治医と決めた後に、薬を飲んでいる患者さんは、現在の状況や薬の効果・副作用を主治医にうまく伝えるのに苦労していることはありませんか?もしかしたら主治医の方も、患者さんの状態や薬の効果について、疑問に感じていることがあるかもしれません。そのようなときに、主治医と患者さんの間で工夫できることがあります。たとえば、飲み忘れがあれば受診の際におおよその数を数えておく、生活リズムについて簡単にカレンダーに○×を書いてチェックしておく、気になることをメモして持参する、などです。

患者さんからすれば、診察時になかなか症状について言えない、聞きたいことを聞けない、といった場合もあるかもしれません。本来はそのようなことがないように主治医が配慮して診察するべきでしょうが、主治医がいろいろな業務が重なって配慮が不十分になることもあります。また、主治医のほうで想像している患者さんの状態と、患者さんご自身が感じている自覚症状に隔たりがあることも多々あります。そのような時にちょっとしたメモやチェック表などがあると、主治医との共有がうまくいくのではないでしょうか?また、前で述べた多職種チーム医療の観点から述べると、外来看護師や訪問看護師、その他の主治医以外に関わる支援者の誰かに伝えられるといいかもしれません。お手数をおかけしますが、いろいろな方法で、主治医にぜひ「治療や薬の効果について」感じていることを教えてください。

通院中や入院中の患者さんには、定期的な検査(採血・尿検査・心電図・レントゲンなど)を受けてもらっています。上記に記載した抗精神病薬などで、手が震える、よだれが増える、食べ物が飲み込みにくくなる、口など体の一部が自然と動いてしまうなどの「錐体外路症状」という神経系の副作用が出ることがあります。また体重増加や食欲増進、血糖上昇、便秘や喉の渇き、生理不順、心電図異常など、体の代謝機能や各器官の調節、ホルモンに関連する副作用もあります。いずれも薬が作用するしくみや部位により、ある程度予想はできるのですが、薬の効果や副作用の出方には個人差もあるので、定期的な検査で「今の薬が身体に合っているか」を調べておくことが重要です。

また、薬の飲み合わせ(相互作用)も注意が必要です。「お薬手帳」などを持参して、他院でもらっている薬を主治医や薬剤師に確認してもらい、飲み過ぎや飲み合わせの悪いくすりの重複をさけるようにアドバイスしてもらいましょう。

特に知的・発達障害の人の薬物療法について

知的障害や発達障害(自閉スペクトラム症や注意欠如・多動性障害など)の場合は、初めの方で述べた生物学的治療(薬物療法)、心理療法や精神療法、社会的介入の3つのバランスが、他の精神疾患とはずいぶん違います。薬物療法の適応・承認薬はごくわずかで、「言葉を用いた精神療法」も知的障害や発達障害の患者さんでは、逆に混乱させることが多いです。それは知的障害を伴わないADHDや、自閉スペクトラム症の患者さんでも見られます。

海外のガイドラインでは、発達障害の治療の第一選択は「心理社会的治療」とされており、コミュニケーションの支援や自閉スペクトラム症などの障害特性に応じたTEACCH®自閉症プログラム、行動の機能的アセスメント(応用行動分析・行動療法)など、患者さん個々人に合った手法での専門的支援を指します。専門用語で聞くと難しいと感じられるかもしれませんが、自閉スペクトラム症の患者さんに絵カードや写真カードで見通しを伝えたり、チェック表を用いてポイントを貯め、欲しいものをもらえるシステムを用いたり、あるいは表面上の行動の奥にある行動の意味を読み取って適切な表現方法に修正していく、などの治療です。知的障害や発達障害では、幼少期からきちんと障害特性の評価をして、無理なく日常生活が送れるような「合理的配慮」や「標準的な支援」(最近の福祉用語で専門的な支援を指すもの)が不可欠と言われます。

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知的障害や発達障害の人への薬物療法は、あくまで対症療法で根本的な問題を改善させる薬はほとんどありません。抗ADHD(注意欠如・多動性障害)薬はADHDの症状そのものに効果がある数少ない薬です。その他は、子どもの自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に効果がある抗精神病薬、子どもの神経発達症の不眠に効果がある薬など、限られた適用があるのみです。知的・発達障害の人には、幼少期から、学校や福祉サービスの支援者とも協力して、多分野でネットワークを作って行う専門的な支援が有効です。

更新:2026.08.14