浜松医大の無痛分娩――安全で快適なお産を目指して

浜松医科大学医学部附属病院

医療安全管理室

静岡県浜松市東区半田山

安全で効果的な無痛分娩を目指してきました

無痛分娩においては、硬膜外(こうまくがい)麻酔が広く行われています。これは、背骨の中にある脊髄(せきずい)を包む硬膜の外側に、細くて柔らかい管を入れて麻酔薬を注入する方法です。私たち麻酔科医は普段から、手術室で手術を受ける患者さんに、必要に応じて硬膜外麻酔を行っており、硬膜外麻酔は麻酔科医にとって特殊な技術ではありません。

当院では、2005年に全国の国立大学病院で初めて、麻酔科医による硬膜外無痛分娩の提供を始めました。当時、国内では限られた一部の施設を除いて硬膜外無痛分娩は行われていなかったため、すべてが手探りの状態で開始しましたが、当初から目指していたのは「安全で効果的な無痛分娩」であり、それは現在でも変わることはありません。国内有数の施設で産科麻酔の研修を受けた麻酔科医を中心に、麻酔科医と産科医、助産師が協力して、硬膜外無痛分娩を実施しています。

当初は年間3人の患者さんでしたが、年々希望する患者さんは増加し、現在までに500人以上の方が無痛分娩を行いました。患者さんが増えるにしたがって、無痛分娩を提供する体制も少しずつ変化してきました。例えば、当初は4人の麻酔科医が始めた無痛分娩も、現在では総勢24人の麻酔科医で担当しています。産科医、助産師の経験も知識も増え、麻酔科医とのコミュニケーションも良くなりました。以前は、分娩の初めからお産になるまでを麻酔科医1人が専属で麻酔管理をしていましたが、2018年からは、夜間の麻酔管理を麻酔科医と産科医、助産師が協力して行うようになりました。しかし、どのように体制が変化しても、私たちが目指しているのは「安全で効果的な無痛分娩」であり、それが変わることはありません。

なぜ、安全な無痛分娩を目指してきたのか

合併症のため、お産の際に硬膜外麻酔が必要な患者さんもいます。必要ではないけれども、痛みのないお産を希望する妊産婦さんもいます。どちらの患者さんもお腹(なか)には大切な赤ちゃんを抱えています。そのような患者さんに麻酔という医療行為をする以上、また必要ではないけれども希望する妊産婦さんに対しては「不可欠ではない医療行為をする」以上は、最大限の安全を求めなくてはなりません。硬膜外麻酔は医療行為であり、合併症の可能性を全くなくすることはできませんが、私たち麻酔科医は、産科医、助産師をはじめ、救急部や手術部スタッフと一緒に常に安全を追求しています。

無痛分娩を通してお産の安全性が向上しています

麻酔科医が無痛分娩に携わるようになってから、お産の安全性が向上してきたと思います。例えば、お産には必ず出血が伴いますが、その量が多くなると母体の生命が危険にさらされます。一方で、私たち麻酔科医は、普段から出血を伴う手術の麻酔と患者さんの全身管理をしています。

私たちが普段から妊産婦さんと近い場所にいることで、無痛分娩でない患者さんであっても、大量出血している患者さんを迅速に治療するお手伝いができます。日ごろから産科医や助産師とコミュニケーションを図り、手術部や集中治療部、輸血部などとの協力体制をつくっています。

また、どれほど順調な妊娠経過でも、帝王切開が必要になる可能性はあります。当院では、毎週1回開いている、産科医と新生児科医、助産師、新生児集中治療室看護師、薬剤師による周産期カンファランスに麻酔科医が出席しています。そして、麻酔科医が、帝王切開となる可能性が高いと思われる妊産婦さんや、合併症をお持ちの妊産婦さんの情報を得て、陣痛がくるよりも前に診察するようにしています。それにより、お産の経過中に急に帝王切開が必要となった場合にも安全に麻酔と手術をすることができます。

このように、安全で効果的な無痛分娩を目指して診療を続けてきたことが、現在私たちが推進している安全なお産につながっていると確信しています。これからも私たち麻酔科医は、産科医、助産師、新生児科医、手術部スタッフをはじめとする当院スタッフと協力して、安全で快適なお産を目指していきます。

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写真 無痛分娩に携わるスタッフ(麻酔科医、産科医、助産師、新生児科医)

更新:2023.08.18