食道がんに対する胸腔鏡下手術とは?
富山大学附属病院
消化器・腫瘍・総合外科
富山県富山市杉谷
食道がんとは?
食道は口から入った食べ物を首(頸部(けいぶ))と胸(胸部)を通って胃(腹部)まで送る管状の臓器で、胸の中では肺や気管、心臓、大動脈、背骨などに囲まれています。
食道がんは、食道の内側にある粘膜から発生し、喫煙や飲酒、香辛料を多く使った食事などで危険性が増すといわれています。初期には自覚症状はなく、進行するにつれて食事のしみる感じやつかえ感、胸やけ、痛みなどの症状が現れます。さらに病状が進むと、声が枯れたり咳(せき)や痰(たん)が増えたりすることがあります。
食道がんは早期発見が難しいこともあり、比較的治療が難しい病気と思われてきましたが、検査や治療法の進歩によって、治る方が増えてきています。
食道がんの検査と治療方法は?
内視鏡検査(胃カメラ)やバリウムによる上部消化管造影(透視)によって、がんの位置や大きさ、性質を調べます。さらに、CTやMRI、PET‐CTなどの検査を行って、周りの臓器への広がりや、リンパ節や全身への転移の有無を調べることで、がんの進み具合 病期・ステージ を診断します。
食道がんの治療法には、手術や内視鏡(胃カメラ)治療、抗がん剤治療、放射線治療などがあり、病期に応じた標準治療を行っています。近年は、手術と抗がん剤など、いくつかの治療法を組み合わせることが多くなっています。
食道がんに対する胸腔鏡下手術とは?
食道がんに対する最も一般的な治療法は手術です。国内で多い胸部食道がんに対しては、頸部、胸部、腹部の3か所の手術を同時に行います。
まず、胸部で食道と転移があるかもしれないリンパ節を、気管や心臓、大動脈などから剥(は)がして摘出します。次に、腹部で胃の一部と食道を切り取って、残った胃を細長く伸ばして、頸部の操作で持ち上げた胃と口側の食道とをつなぎます(図1)。このように比較的大きな手術であるため、患者さんの体力と手術の負担を考慮した上で適応を決定します。
食道がん手術で、患者さんの体にとって最も負担になるのが胸部の操作です。これまでは大きく開胸していましたが、当院では2008年より胸腔鏡下食道切除術(きょうくうきょうかしょくどうせつじょじゅつ)を導入しています。
胸腔鏡下手術では、肋骨と肋骨の間に5~10mm程度の傷を4~5か所つけて、その1つからカメラ(胸腔鏡)を入れて、胸の中の様子をハイビジョンモニターで観察しながら手術を行います(写真1)。
この手術によって、より安全で緻密な操作が可能となり、リンパ節摘出数が増える一方、出血量は非常に少なくなりました。腹部の操作も腹腔鏡(ふくくうきょう)で行うことで、さらに傷が小さくなり、術後の回復がとても早くなっています(写真2)。
近年は、体力が低下していて胸腔鏡下手術を受けることが難しい患者さんには、胸部の操作を縦隔鏡(じゅうかくきょう)で行うことで安全に食道がんを切除しています。
みんなで支える体にやさしい食道がん治療とは?
体への負担が小さくなった食道がん手術ですが、さらに安心して手術を受けていただくために、入院前から病状や治療法について詳しい説明を聞いてもらい、術後の肺炎予防のための口腔(こうくう)ケアや呼吸訓練を行います。
また、心臓や肺の働きを調べて必要があれば治療やリハビリを行います。病状によっては、術前抗がん剤や放射線治療が必要な場合もありますが、内科、外科、放射線科、薬剤部などが連携して治療にあたります。このように、患者さんを中心とした治療を病院全体で支えながら進めることで、最適な医療をより安心・快適に受けていただけるよう取り組んでいます。
当科における診療実績は?
当院での食道がん手術件数は、2008年以後徐々に増加しており、2019年は26件で、このうち21件(80.8%)が胸腔鏡下手術でした(図2)。2019年12月に当院での胸腔鏡下食道切除術は150例を超えました。
手術成績ですが、2008年から2016年までの120例の5年生存率(がんが治ってしまう割合)は、臨床病期Ⅰ期91.0%、Ⅱ期70.8%、Ⅲ期50.7%と全国集計と比べても、良好な結果になっています。
当院は食道外科専門医が勤務する、北陸では数少ない食道外科認定施設です。頸部食道がんに対する喉頭温存手術(こうとうおんぞんしゅじゅつ)や下咽頭(かいんとう)・喉頭切除術、化学放射線治療後の遺残に対する追加切除手術も安全に行っています。
また、食道良性腫瘍、食道アカラシア、逆流性食道炎などを対象に、腹腔鏡や胸腔鏡下手術を含む集学的治療を行っています。
更新:2024.10.09