免疫性神経疾患の診断と最適な治療－多発性硬化症・視神経脊髄炎・慢性炎症性脱髄性多発神経炎

多発性硬化症（MS）は中枢神経系（脳・脊髄（せきずい））に脱髄（だつずい）病巣（図１）ができて、病巣の場所によって脱力、しびれ、歩行障害、視力障害、頻尿などさまざまな症状を呈します。20～50歳代の若年成人女性に多い病気で、男女比は約１対３です。多くは一旦発症すると良くなったり（寛解）悪くなったり（再発）を繰り返します。

例えば、手足は脳神経細胞の指令が電気コードの電線に相当する神経軸索で伝えられ動きますが、電線を取り巻く絶縁体に相当する髄鞘（ずいしょう）が障害され、指令が伝わらず、麻痺（まひ）やしびれとして現れます。原因は、本来自分を感染などから守る免疫システムが誤って自分の体を攻撃する自己免疫疾患と考えられています。

MSとよく似ていて区別がつきにくい病気ですが、視神経障害による視力障害や、脊髄障害による歩行障害、排尿障害、体幹や足のしびれが主な症状です。一般にNMOSD（エヌエムオーエスディー）と呼ばれます。MSと比較して重症で、女性がより多い（男女比１対９）という特徴があります。原因は抗アクアポリン４抗体という自己抗体ができて、脳脊髄に存在するアストロサイトという細胞を障害することで、２次的に神経障害をきたします。また最近では抗MOG抗体関連疾患というNMOSDに類似した自己免疫疾患もあるので注意深く診断します。

急性期（初発、再発期）治療と再発予防治療（寛解期）に分けて考えます（表）。

急性期治療

MS、NMOSDともにステロイドパルス療法という副腎（ふくじん）皮質ホルモンの点滴治療を行います。効果不十分なとき、血液浄化療法という治療を行います。

MSの再発予防治療

現在、国内では①インターフェロン・ベータ（ベタフェロンⓇ、アボネックスⓇ）、②グラチラマー酢酸塩（コパキソンⓇ）、③フマル酸ジメチル（テクフィデラⓇ）、④フィンゴリモド（イムセラⓇ、ジレニアⓇ）、⑤ナタリズマブ（タイサブリⓇ）が認可されています。これらの薬は疾患修飾薬と呼ばれ、患者さんの予後を格段に改善できるようになりました。ただし効果が大きい反面、副作用もあること、患者さんによって効く人、効かない人がいることを考慮し、慎重に治療する必要があります。

NMOSDの再発予防治療

MSと異なり、基本は少量のステロイド剤を服薬しながら、効果不十分なときや、ステロイドの副作用を軽減する目的で免疫抑制剤を併用します。NMOSDに対する疾患修飾薬としてエクリズマブ（ソリリスⓇ）が最近認可され、他剤の認可も期待されています。

２か月以上かけてゆっくり進行する手足の筋力低下（手足に力が入らない、疲れやすい、手足が思うように動かない）や、感覚障害（手足がしびれる、足裏の感覚がにぶい）を生じる末梢神経（まっしょうしんけい）の病気です。

患者数は10万人あたり２人程度で、発症年齢は小児～高齢者まで広い年齢層にまたがります。前記のMSやNMOSDと同様に、神経軸索をとりかこむ髄鞘に対する自己免疫異常が原因と考えられており（図２）、再発・寛解を繰り返します。MSやNMOSDは中枢神経に病巣ができる病気ですが、CIDPは末梢神経に病巣ができる病気である点で異なります。

急性期（初発、再発期）治療と再発予防治療（寛解期）に分けて考えます。

急性期治療

免疫グロブリン点滴治療、ステロイド治療、血漿（けっしょう）交換療法が３本柱です。CIDPの診断であればいずれかの治療で効果があるといわれています。健康な人から集められた免疫グロブリンや、副腎ステロイドを点滴することで自分の細胞を攻撃する自己免疫異常を抑えることが期待されます。血漿交換は血液中の異常な自己抗体を直接取り除く治療です。

再発予防治療

定期的な免疫グロブリン（IVIg）療法や、経口の副腎皮質ステロイドの内服を行います。再発を繰り返すことで症状がさらに進行するため、再発に関係なく定期的に治療を繰り返します。