手術後の痛みとその治療方法-術後の痛み
富山大学附属病院
麻酔科
富山県富山市杉谷
どうして手術をした後に痛みが生じるのですか?
手術は、けがと同じように私たちの体を構成している皮膚、筋肉、内臓や神経などを損傷し、これらの組織の細胞を破壊します。破壊された細胞から、炎症を引き起こす化学物質やサイトカインなどの痛み誘発物質が放出されます。さらに、手術部位周辺の血液循環が悪くなることも重なり、周囲の細胞からは痛みを誘発するいろいろな物質が次々に放出されるようになります。
これらの物質は、末梢神経にある痛みの受容体を刺激し、その結果、受容体から発生する電気的な信号が脊髄(せきずい)から脳へと伝わり、脳で痛みを感じるようになります。
また、手術によって、末梢神経そのものが損傷を受けると、神経自体が痛みに過敏な状態となり、さらに痛みを強く感じるようになります。全身麻酔中は、麻酔薬の効果によって痛み神経の活動が強く抑制され、全く痛みを感じることはありません。しかし、手術が終了して麻酔薬の効果が切れてくると、痛みを感じるようになります。
痛みを軽快する方法はありますか?
あります。術後の痛みをとるために、鎮痛薬投与や神経ブロックによる方法があります。
鎮痛薬として、①炎症反応を抑制する非ステロイド性抗炎症薬、②脳に作用して鎮痛効果を発揮するアセトアミノフェン、③医療用麻薬であるフェンタニル(適切に使用するので依存症などの心配はありません)をよく用います。これらを水とともに飲んだり、坐薬として用いたりすることもありますが、持続的に点滴を介して静脈へ投与することが一般的です。特に、手術後に痛みが出たときに患者さん自身でフェンタニルを投与する患者管理鎮痛法Patient Controlled Analgesia(PCA)をよく用います(写真1)。この器具を使用して、患者さん自ら、痛みが生じたときに鎮痛薬を投与します。
神経ブロックとして、硬膜外(こうまくがい)神経ブロック(写真2)や何種類かの末梢神経ブロックを行います。これらは、痛みを感じるもととなる神経に細いブロック針を近づけて(麻酔薬を使うので痛みはありません)、そこから局所麻酔薬を投与する方法です。
局所麻酔薬は、末梢神経にある痛みの受容体から脳へ伝わる電気的な信号を遮断し、痛みの信号を脳へ送らないようにします。また、手術後も神経ブロックを継続的に行うために痛みを感じる神経の近くに細いチューブを留置し、局所麻酔薬を持続的に投与する方法を用います。手術によって損傷した部位の痛みを感じる神経が末梢神経ブロックの対象となり、腕神経叢(しんけいそう)ブロック(写真3)、坐骨神経ブロック、大腿(だいたい)神経ブロックや腹横筋膜面(ふくおうきんまくめん)ブロックなどがあります。
麻酔科医は、手術の種類や患者さんの状態によってどの鎮痛方法が適しているのか、またこれらの方法を、どのように組み合わせて鎮痛を行うのが最も適しているのかを判断して、手術の麻酔に臨みます。私たちは、患者さんが手術後に痛みで眠れないことがないように、また少なくとも安静にしているときには痛みをほとんど感じないように、鎮痛に努めます。
手術をして3か月経っても痛みが続いています。どうしたらいいですか?
多くの場合、手術後の痛みは軽快し、最終的には感じないようになります。しかし、手術を受けた患者さんの約3分の1に、手術後2週間以降にも持続する痛みが生じると報告されています。この痛みの原因は十分に明らかになっていませんが、炎症による急性の痛みから慢性の痛みへとその性質が変化していると考えられています。
痛みも、手術直後の痛みとは違い、焼きごてをあてられたような、しびれるような、電気が走るような痛みと表現されます。この痛みに対して決定的な治療方法はありませんが、できるだけ手術後早期から慢性の痛みへ移行しないように、神経ブロックを行い、鎮痛薬を投与すると効果があります。ここで用いられる鎮痛薬は、慢性の痛みに用いる抗けいれん薬や抗うつ薬(慢性痛に対しても効果がある)などです。
これらの痛みがある場合には治療などの相談に応じています。なお、当科の外来は、予約制(紹介状が必要)です。
手術後の痛みに対して、鎮痛薬投与や神経ブロックを行います。
患者さん自身で鎮痛薬を投与する患者管理鎮痛法もあります。
麻酔科医は、患者さんに最も適切な鎮痛方法を考えて手術の麻酔に臨みます。
手術後1~3か月が経過しても痛みが続く場合は、急性から慢性の痛みへと変化している可能性が高いです。
更新:2024.10.04