胃がんに対する低侵襲手術-腹腔鏡下胃切除ならびにロボット支援下胃切除
藤田医科大学病院
総合消化器外科
愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪
胃がんに対する低侵襲手術とは?
胃がんの罹患率(りかんりつ)は低下傾向にありますが、依然として日本人に多いがんの1つです。
治療は、早期胃がんの一部であれば内視鏡的治療が可能ですが、それ以外では根治的切除(こんちてきせつじょ)(病巣をとりきる手術)が必要となります。その多くは、リンパ節郭清(せつかくせい)を伴う胃切除であり、胃がんのできていた場所や大きさによって、幽門側(ゆうもんがわ)胃切除(幽門側の胃3分の2から5分の4を切除)、噴門側(ふんもんがわ)胃切除(噴門側の胃3分の1から2分の1切除)、胃全摘などの術式が決まります。従来はお腹(なか)を大きく開けて行う開腹手術が主流でした。
近年では、医療機器の発達や技術の向上などにより、低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)が進歩・発展してきました。低侵襲手術とは、二酸化炭素をお腹に入れてふくらませた状態、いわゆる気腹した状態にしてから、お腹の中にカメラを入れて小さな傷から行う手術のことです。胃がんに対する低侵襲手術として、腹腔鏡(ふくくうきょう)下胃切除とロボット支援下胃切除術があり、当院ではこれらに特に力を入れています。
腹腔鏡下胃切除術とは?
腹腔鏡下胃切除術は、お腹の表面に1cm程度の創部(そうぶ)を5~6か所あけて、トロッカーといわれる筒状の手術器具を挿入して、そのトロッカーを通してビデオカメラや手術器具を挿入して胃を切除、続いて再建(切除後も胃と十二指腸、もしくは小腸をつなぐこと)を行う手技です。
利点として、創部が小さくなるために早期離床や術後疼痛(とうつう)の軽減など、より早い術後の回復が得られ、術後在院日数も短くなることなどが挙げられます。当科では1998年より本術式を導入し、これまでに2000例以上行っており、安定した手術成績が得られています。
ロボット支援下胃切除術とは?
内視鏡手術支援ロボットは、腹腔鏡手術の欠点(直線的な手術器具、手振れ、手術器具の可動域制限など)を克服するべく開発されました。現在主流となっている内視鏡手術支援ロボットは、2000年頃より登場した米国Intuitive Surgical 社のda Vinci Surgical System(ダビンチ)です(写真1)。
外科医がロボットを操作しますが、関節機能がある手術器具を人間の手のように用いることが可能で、直接体内に触れるのは機械なので手振れがほとんどありません。そのため、これまでの腹腔鏡手術よりもさらに複雑で細やかな手術手技を、より安全かつ侵襲を少なく実施できる可能性を秘めています。
国内では2009年にダビンチが薬事法承認を受け、2018年の段階で約300台が導入されています。当科では、国内ではいち早く2009年より本術式を導入し、2018年3月までに自費診療を中心にロボット支援手術を400例以上施行してきました(写真2)。2018年4月よりロボット支援下胃切除術が保険適用となったことで、以降急速に国内でも普及してきているものの、現状ではこの手術を受けられる施設はまだまだ限られています。
実際の治療成績に違いはある?
当科での低侵襲手術の手術成績を検討しますと、早期胃がんに対する治療では腹腔鏡手術とロボット支援手術で合併症の頻度(ひんど)や、入院期間などの治療成績にほとんど差がありませんでした。しかし、進行胃がんに対する手術や、胃全摘などの広範囲切除が必要となる患者さんでは、ロボット支援下胃切除術の方が合併症の起こる頻度は低く、術後の入院期間が短くなり、安全に手術が行えていました。術後3年以上経過したあとの治療成績では、腹腔鏡下手術とロボット支援手術の間で差は認められませんでした。
胃がんに対する低侵襲手術の入院経過
当科での入院経過は、腹腔鏡手術、ロボット支援手術ともに共通です。特に基礎疾患などがない方の場合には、手術の2日前に入院していただきます。手術の前日に、胃カメラにてがんの部分をマーキングします。患者さんにとっては負担ですが、病巣の範囲を手術中にしっかり確認することができるようになります。手術翌日より水を飲むことができ、積極的に立ったり歩いたりしていただきます。手術後3日目前後に造影剤を飲む検査で、つないだ胃腸の通過具合を確認します。この検査で問題なければ食事開始となります。その後問題なければ、手術後10日前後で退院となる見込みです。
安心、安全な入院生活を送れるよう、病棟スタッフ一丸となって丁寧に対応しています。
更新:2024.10.08