声や嚥下の機能を残す 最新の咽頭がん・喉頭がん手術
藤田医科大学病院
耳鼻咽喉科 頭頸部外科
愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪
咽頭がん・喉頭がんとは
のどは咽頭(いんとう)と喉頭(こうとう)に分かれており、咽頭は主に飲み込み(嚥下(えんげ))、喉頭は発声という、人が生活を送るうえで重要な機能に大きく関係しています。咽頭・喉頭の機能が損なわれると、嚥下の機能が低下して食事を口から取れなくなったり、声が出せなくなったりします。
咽頭がん・喉頭がんは咽頭や喉頭にできるがんであり、飲酒や喫煙と関係しますが、最近ではパピローマウイルスが原因の中咽頭がんが増えてきています。これらのがんの治療では、がんを治療するだけでなく、治療後の人生を考えて飲み込みや発声の機能をいかに残すかが非常に重要です。
咽頭がん・喉頭がんの治療
咽頭がんや喉頭がんの主な治療法は手術治療と放射線治療です。以前は首の皮膚を切って外側からがんを取る手術(頸部外切開術(けいぶがいせっかいじゅつ))が広く行われてきました。この手術は特に進行がんに対しては、がんを根治(こんち)するのに必要不可欠で重要な手術ですが、侵襲(しんしゅう)(体への負担)が大きいため嚥下や発声の機能を犠牲にせざるを得ないことがありました。
そこで最近では早期のがんに対して、のどを温存するために放射線治療あるいは化学療法を併用した化学放射線治療も多くの施設で行われています。のどを残しながらがんを治療するという点で有効な治療法であり、当科でも積極的に行っていますが、放射線治療により唾液を作る唾液腺やのどの組織がダメージを受けるため、治療の後遺症で口の中がカラカラに乾いたり、食べ物がうまく飲み込めなくなったりして、がんが治っても口から食べることができなくなることがあります。嚥下や発声の機能を温存しながらがんを治すためには、がんを早期に発見し、負担の少ない治療で治すことが必要です。
咽頭がん・喉頭がんの早期スクリーニング
咽頭がん・喉頭がんは進行するまで症状が出ないことも多く、早期発見には内視鏡検査が最も有効です。最近ではNarrow Band Imaging(NBI)やLED光源などによる画像強調技術が発達し、これまでの内視鏡では見つけることが困難だった早期のがんを見つけることができるようになっています(図)。また、消化管内視鏡は画像強調技術の性能が高く、咽頭がん・喉頭がんの患者さんは食道がんや胃がんを合併していることが多いため、当院では消化管内科の協力により、上部消化管内視鏡検査のときに咽頭や喉頭も観察するスクリーニングを積極的に行っています。
咽頭がん・喉頭がんに対する内視鏡手術
早期のがんに対して、口から内視鏡を入れて、モニターで見ながらがんを取る経口的鏡視下手術が開発され、近年注目されています。この方法は胃カメラなどを口から挿入して咽頭がん・喉頭がんをモニターに映し出し、口から挿入した手術器具を使ってモニターを見ながらがんを取る手術です。すべての操作を口から行うため、皮膚に傷をつけずに手術を行うことができます。また必要最小限の範囲でがんを取ることができるため、手術後の飲み込みや発声の機能損失を必要最小限に抑えることが可能です。
この経口的鏡視下手術は2020年度から保険適用となりました。当科の頭頸部(とうけいぶ)がん治療グループは国内有数の経験をもっており、中部地方内外から紹介を受けてこの治療を行っています。
咽頭がん・喉頭がんに対する経口的ロボット支援手術
経口的ロボット支援手術は手術支援ロボットを口から挿入して、早期の咽頭がん・喉頭がんを切除する手術方法であり、アメリカや韓国を中心に世界的に広まっています。経口的ロボット支援手術では3D内視鏡による鮮明な手術映像を見ながら、手術用器具を術者の意のままに操ることができるため、これまでは切除が難しかった病変を安全かつ確実に切除することが可能です(写真2)。経口的鏡視下手術と同様にすべての操作を口から行うため、皮膚を切らずに手術ができます。当科では2019年7月に中部地方初の経口的ロボット支援手術を実施し、以後も中部地方内外から紹介を受けて治療を行っています。
また、この手術をスタートするには日本頭頸部外科学会が作成した教育プログラムに沿ってカダバートレーニング(ご遺体や献体を用いた手術手技研修)を修了する必要がありますが、本学では国内で唯一の本手術のカダバートレーニングを開催しています(写真1)。全国の医師に本学の施設で技術を教授しており、この手術の安全な普及に貢献しています。
更新:2024.10.09