成人脊柱変形症（側弯症や後弯症）に対する矯正手術

腰曲がりは年だから仕方がないのか

背骨（脊椎（せきつい））が横に曲がる病気を側弯症（そくわんしょう）と呼びます。

側弯症は大きく分けると２つのタイプがあり、１つは子どもの頃に変形が進行するタイプ、もう１つは60歳代前後から変形が進行するタイプです。

60歳代前後から変形が進行するタイプでは、腰椎（ようつい）の骨と骨の間にある椎間板（ついかんばん）というクッションのような役割を果たす部分が徐々に痛んでくることが関係しています。年齢とともに徐々に痛んでくることを変性と呼びますが、60歳代前後から変形が進行するタイプでは、椎間板の変性の進行とともに、脊椎の変形が進む傾向にあります。

また、脊椎は本来、横から見た骨の並びはまっすぐではなく、腰の部分（腰椎）が前に弯曲（わんきょく）し（前弯）、背中の部分（胸椎（きょうつい））が後ろに弯曲し（後弯）、首の部分（頚椎（けいつい））が前に弯曲して（前弯）いることでバランスを保っています。骨の並びのことをアラインメントと呼びますが、高齢の方の場合は、椎間板の変性の進行とともに横から見た脊椎のアラインメントにも異常が出てくる場合があり、腰が後ろに曲がる腰椎の後弯が認められることがあります。腰椎のアラインメントが後弯になると、体が前に傾く傾向が認められます。

体には重心の線がありますが、本来は、耳の辺りからまっすぐ下に降ろした線が体幹の重心の線になり、この重心の線が骨盤の上に来ないと人間は立つ際にバランスを取れなくなります。腰椎のアラインメントが後弯になると、体幹の重心線がより前方にずれることになるため、本来、重心線が通過する骨盤に重心線を近付けるために、骨盤を後ろに傾けないとバランスを取って立っていられなくなりますが、この骨盤後傾によって、腰から骨盤にかけての筋肉に過度な負担がかかり、腰から骨盤辺りにかけての痛みにつながります。

このような原因による痛みは背部に広がることもあります。これらの腰痛や背部痛の特徴は、立位の継続時に認められるということであり、したがって、脊柱変形の程度が大きい方の場合には、立位継続時の腰背部痛のために短時間しか立っていられないということになります。結果として、立位継続時の腰背部痛は、日常生活上、大きな問題となり、生活の質が大きく低下することになります。

手術の道具や技術が進歩する前は、昔から「腰曲がり」と呼ばれてきたこのような病態を持った患者さんは、病院に受診しても、「年だから仕方ない」の一言で済まされる傾向にありました。しかし現在は、手術の道具や技術が進歩し、さまざまな条件を満たせば、脊椎の変形矯正の手術を行い、愁訴の改善につなげることが可能になっています。脊椎の変形矯正の手術が、痛みの改善に限らず、「腰曲がり」の外見の改善、時には内臓の問題の解決にもつながり、生活の質の大きな改善に結びつくことも少なくありません。

成人脊柱変形症に対して矯正手術を行う際の条件

脊椎の変形矯正の手術を施行する際には、患者さん側、また私たち医療者側の設備などの面でもさまざまな条件をクリアしている（満たしている）ことが重要です。

脊椎の変形矯正の手術を行う際には、骨をある程度削る必要がありますが、骨の中に骨髄（こつずい）という血液を作る部分があるため、それなりの量の出血を伴います。また、脊椎を全体的に矯正する手術はそれなりに時間のかかる手術であり、患者さん側の要素としては、循環器や呼吸器の機能がある程度以上であるなど、全身状態に大きな問題がないという条件をクリアしていることが重要です。

脊椎の変形矯正の手術が施行可能になった背景としては、矯正を行う際に用いる脊椎関連のインプラントが大きく進歩したことも寄与していますが、患者さんの骨が脆弱（ぜいじゃく）だと、これらのインプラントが「糠（ぬか）に釘」のような形になり、さまざまな合併症に繋がる可能性が高くなります。したがって、患者さんの骨質がある一定以上のレベルをクリアしていることも重要であり、手術前から十分に骨粗（こつそ）しょう症（しょう）対策を行うことも重要です。検査の結果、全身状態の問題が大きい、または骨の脆弱性が非常に強く、矯正手術を行うことが合併症につながる可能性が高いと判断された患者さんには、手術を行うという選択肢を提示しない場合もあります。また、合併症予防の対策を十分に取っていても、感染や隣接椎間障害などは、大きく進歩した現在の医療技術を駆使しても、ある一定の割合で認める合併症であり、そのことを患者さんに十分に理解いただくということも重要です。

また、脊柱変形の矯正手術を施行する際に何よりも大事なことは、患者さんが困っている愁訴が手術によって実際に改善するか否かを、手術前にシミュレーションを行って確認をすることです。改善するかどうか、とりあえずやってみましょう、などということは、当然のことながら望ましいことではありません。この点に関して当科では、私たちが独自に考案した検査法によって確認を行っており、改善の見通しの高い患者さんに手術を行うという選択肢を提示しています。

一方、脊椎の変形を矯正する際には、脊椎の中にある脊髄の周囲の環境が変わることになり、それに伴って、脊髄の機能が落ちる可能性があるため、手術中、脊髄の機能をチェックするモニタリングと呼ばれる操作を行いながら、矯正を行うことが重要になります。したがって、このようなモニタリングを行うために必要な機器が施設に備わっているということも重要です。

脊椎の変形矯正の手術を行う上では、専門性の高い技術を持った医師がいるということはもちろんのことですが、手術を行う病院としても、前述した脊髄モニタリングの例のように、専門の機器が十分に整っているという意味でも専門性の高い病院であるということが重要であり、当院では、脊椎外科領域の専門性の高い施設として、施設面での充実性もさまざまな観点から高めています。

更新：2024.10.09