身近な病気となったうつ病の診断と治療
浜松医科大学医学部附属病院
精神科神経科
静岡県浜松市東区半田山
うつ病とは?
近年、うつ病と診断される方が増え、身近な病気として知られるようになってきました。うつ病になると、気分の落ち込みや興味・喜びの減少といった精神の症状と、不眠、食欲低下といった体の症状の両方がみられます。
治療は、休養、薬物療法、精神療法といった方法がありますが、症状の程度や内容に合わせて正しい治療法を選択することが重要です。当科では、認知行動療法から電気けいれん療法まで、大学病院ならではの治療を行っています。
うつ病の現状と症状
近年、うつ病と診断される方が増え、2017年の厚生労働省の調査によると、全国で120万人以上の方がうつ病と診断されています。また、「うつは心の風邪」といわれてきましたが、実際にはそのイメージに反して症状は重く治療期間も長いため、患者さん自身や家族、さらには職場や学校などにも大きな負担が生じます。
そのため、社会的な影響も大きく、日本だけでも年間約2兆円の経済的負担に相当するという試算もあります。こうした背景から、近年はうつ病を予防する重要性にも関心が高まり、職場でのストレスチェックや働き方改革といった対策も行われています。
うつ病では、気分の落ち込みや興味や喜びが減るといった症状を中心に、意欲や気力がわかない、疲れやすい、集中力が落ちる、物事の決断が難しいなどの症状がみられます。さらに、眠れない、食欲がわかないなどの体に現れる症状もみられます。
その結果、仕事、勉強、家事などができなくなり、自分を責めたり、自分自身に価値がないという考えが強くなります。ついには「いなくなりたい」「死んでしまいたい」と思ってしまうこともあります(表)。
うつ病の症状 |
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また、うつ病とよく似た疾患に、双極性障害(そうきょくせいしょうがい)や適応障害があり、見極めが必要です。双極性障害では抑うつ症状に加えて、気分が異常に高揚する、過剰に活動的になるなどの躁症状(そうしょうじょう)が現れる時期もみられます。
適応障害は、生活環境から受けるストレスが抑うつ症状の原因としてあり、この原因がなくなると症状も改善するのが特徴です。
当院では、まず初めに十分な時間をかけて詳細な問診を行います。また、一部の身体疾患でも抑うつ症状がみられるため、これを除外するために血液検査や頭部MRIなどを行います。さらに、症状の内容や程度を知るために、心理検査を行います。問診と検査結果を総合して診断を見極めます。
うつ病の主な治療
治療には、まず十分な休養が必要です。休養といっても一日中何もしないわけではなく、仕事や学校などのストレスの原因から離れながらも、規則正しい生活や、バランスの取れた食事をとることが大事です。また、可能な限り働き方や生活環境などを調整します。
薬物療法
薬物療法には抗うつ薬を使いますが、作用する神経(セロトニン神経、ノルアドレナリン神経)によってさまざまな種類があります。副作用として頭痛や吐き気、胃の違和感などが現れることがあり、自分に合った薬を選ぶことが重要です。そして、十分量、十分期間服用することが最も治療効果、再発予防効果が高いとされています。
精神療法
精神療法としては、口にできずに溜ため込んでいた想いを、否定されない環境で語ってもらうなどの過程によって、改善効果を発揮する支持的精神療法や、より専門的な認知行動療法などがあります。患者さんの病状や問題点に合わせて、さまざまな精神療法を組み合わせて治療を行っています。しかし、こうした治療でも症状の改善が難しい、自殺の危険が迫っているなどの場合には、電気けいれん療法を行うこともあります(図1)。
より専門的な治療
標準的な支持的精神療法や薬物療法に加えて、以下の治療を行っています。
認知行動療法
認知行動療法は、うつ病に特徴的である悲観的な捉え方を標的に、バランスの取れた思考法を習得することで症状を緩和する精神療法です(図2)。
当院では、2019年からうつ病の当科の特色認知行動療法専門外来を開設し、1回60分、計16回のセッションで認知行動療法を行っています。これまで認知行動療法を受けた16人のうち7人の方で、ほぼ自覚症状がない程度まで回復しました。
当院では、以前より臨床心理士の育成を続け、多くの人材を輩出し、積極的に認知行動療法を行える体制を整えています。
電気けいれん療法
一方、幻聴や妄想を伴う方、自殺の危険が切迫している方、抗うつ薬の効果が不十分な方など、重症のうつ病の方を対象とした電気けいれん療法も行っています。
電気けいれん療法は、頭部を電気で刺激して脳を活性化する方法です。入院して、麻酔科の協力のもと全身麻酔下で行い、けいれんを起こさず、安全に行うことができるよう努めています。
更新:2023.10.26