「お薬手帳」のさらなる活用法

浜松医科大学医学部附属病院

薬剤部

静岡県浜松市東区半田山

「お薬手帳」の広がり

「お薬手帳をお持ちでしょうか?」と、医療機関や薬局で聞かれたことがあるかと思います。ここ10年で「お薬手帳」という言葉をよく耳にするようになりました。

導入の経緯には、薬の飲み合わせで、不幸にも死者を出したソリブジン薬害事件(1993年)があり、その後、お薬手帳の使い方は広がってきています。お薬手帳は、一人ひとりの患者さんの大切な薬の記録です。ここでは「お薬手帳のさらなる活用法」についてご紹介します。

お薬手帳の活躍

一般的に、医療スタッフが病院や薬局で「お薬手帳をお持ちでしょうか?」と質問する目的の1つは、患者さん(または患者さんの家族)が、いつ、どこで、どのような薬を飲んでいるのかを把握するためです。そのうえで「今、治療に使っている薬」や「これから使用する薬」を安全かつ有効に使用することができるかを、適切に判断しています。

当院においても、お薬手帳により、ほかの病院でどのような薬が処方されているかなどを確認することで、薬の飲み合わせを考慮した薬物治療を行うことや、過去のお薬などのアレルギー歴から予測可能な薬剤アレルギーの発生を防止または低減させることに役立っています。

もちろん、お薬手帳を活用するのは病院や薬局のみではありません。「今度、病院や薬局に行ったときに聞いてみよう」と思っていたことを、いざ病院や薬局に行ったときに聞き忘れてしまったなどの経験はありませんか?

そのようなときに、困ったことや体調の変化をお薬手帳にメモしておくと、次回の受診時などに忘れず正確に医療スタッフに伝えることができます。

近年では、「電子版お薬手帳」の導入も進められています。電子化に伴い、自身のスマートフォンなどに薬の情報やアレルギー歴などを保管することが可能となるなどのメリットがある一方で、まだその運用については日本全体で統一されていないのが現状です。当院では、お薬手帳の電子化を有効に利用するため、地域の薬局との連携を強化しています(写真1)。

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写真1 地域連携懇話会

入院時・退院時におけるお薬手帳の役割

それでは、当院ではお薬手帳をどのように活用しているでしょうか。

当院において、最もお薬手帳が活躍するのは「入院時・退院時」になります。入院する前には入院支援センター、入院後は病棟において、薬剤師、医師、看護師が、患者さんのお薬手帳からさまざまな情報を収集しています。

例えば、入院中の検査や処置の際に影響を及ぼしてしまう薬を万が一患者さんが服用していた場合、影響を最小限にするような対策を事前に行うことができます(体調に応じて薬を止める、別の薬に変えるなど)。また入院中も、入院前と同じように安全を継続することが可能になります。

退院後から外来診療に移った際、お薬手帳はほかの病院や薬局、そして患者さんとの「交換日記」のような役割を果たしています。

当院では、退院時に「写真2」のように、入院中の薬の使用歴や副作用、アレルギー歴、私たちが考える最良な薬の管理方法について、お薬手帳に記載または貼付しています。これにより、ほかの病院や薬局が、患者さんにとって最適な治療を提供できます。一方、ほかの病院や薬局、患者さんがお薬手帳に情報を記載することで、それに基づいて、当院が外来受診または受診の際、速やかに対応することが可能となります。

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写真2 お薬手帳

ぜひ、お薬手帳を「交換日記」のように使用してみてください。

災害時におけるお薬手帳の活用

ここまで、日常でのお薬手帳の活用について述べましたが、お薬手帳が活躍するのは日常のみではありません。それは、地震などの災害時です。

2011年に発生した東日本大震災では、多くの病院や薬局などのカルテや薬歴などが、大きな被害を受けました。そのような中、お薬手帳の活用により、患者さんの服用歴から医薬品が供給され、適切な医療を提供できる場面がありました。当院からも薬剤師を含む医療スタッフが現地に派遣され、薬剤師はお薬手帳を利用し、薬剤師から医師への処方提案や、医師の治療方針に基づき薬剤師が使用医薬品を選定するなどの活動が行われました。

最近では、2020年に新型コロナウイルス集団感染が起きたクルーズ船に、当院から医療スタッフが派遣された際にも、薬物治療の提供にお薬手帳が活用されました。

このように、お薬手帳は日常のみならず、災害時にも患者さんを守るツールとして用いられます。最新のお薬手帳のコピーなどを、自宅の災害備蓄用バッグなどに入れておくことでも、その能力は発揮されます。

また当院では、静岡県独自で作成された「防災型お薬手帳」を渡しています。「防災型お薬手帳」は、次のような特徴があります(写真3)。

  • お薬手帳に災害時での活用方法が記載されていること
  • 表紙が蛍光になっており、停電時でも所在がわかりやすいこと
  • 表紙が擦り切れにくく、濡れても大丈夫な仕様になっていること
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写真3 防災型お薬手帳

ぜひ、お薬手帳を日常および災害時のために活用してみてください。

更新:2023.10.26