泌尿器科領域におけるロボット支援手術

札幌医科大学附属病院

泌尿器科

北海道札幌市中央区

前立腺がんに対するロボット支援手術

前立腺がんは近年、男性で増加しているがんであり、2018年のがん統計では男性の部位別がん罹患率(りかんりつ)(*1)の第1位となっています。転移のない前立腺がんは、前立腺を全摘する外科手術、あるいは放射線治療(場合により内分泌療法を加えたもの)により根治(こんち)(*2)の可能性が高いことが知られています。

治療それぞれに長所と短所がありますが、治療期間は手術が明らかに短く(手術:およそ1~2週間、放射線治療:およそ2か月)、2020年度は当科で44例の根治手術を行っています。前立腺全摘はもともと臍(へそ)から恥骨(ちこつ)上まで切開を加える開腹手術にて施行していましたが、切開したときの創(きず)の疼痛(とうつう)(痛み)や出血量が問題となっていました。腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)の出現によりこれらの問題は改善されましたが、腹腔鏡は操作が容易ではなく膀胱(ぼうこう)と尿道の吻合(ふんごう)(縫ってつなぐこと)は難易度の高い操作であり、新たな課題でした(図1)。

図
図1 前立腺手術における膀胱尿道吻合

ロボット支援手術では、創部(そうぶ)が小さく、出血量が軽減されました。さらに膀胱-尿道吻合など、従来の腹腔鏡では複雑だった操作も容易に施行可能となりました。一般にロボット支援手術では、①制がん(がんの増殖を遅らせるまたは抑えること)、②尿禁制(尿漏れのない状態のこと)、③出血量軽減の3点において優れた術式であるとされており、現在ではロボット支援下腹腔鏡前立腺全摘術は、前立腺がんに対する標準的な術式であるとされています。

当科では2021年9月現在、9人のロボット支援手術資格保有医師がおり、さらに7人のプロクター取得(手術指導のための資格)医師が在籍しています。今後も患者さんに安心して手術を受けてもらえるよう、さらに洗練した外科治療を提供することを目標に日々研鑽を積んでいます。

*1 罹患率:病気になる人の割合
*2 根治:完全に治すこと。治癒

腎がんに対するロボット支援手術

腎細胞(じんさいぼう)がん(腎がん)は腎臓に発生する悪性腫瘍(あくせいしゅよう)で、以前は疼痛、腫脹(しゅちょう)(腫(は)れ)、血尿の3つの症状があるとされていましたが、CT(画像診断機器)の普及とともに偶然発見されることが増えています。以前は腎がんが画像診断で疑われる場合には、疑いがある方の腎臓を開腹手術で摘出し治療を行っていました(根治的腎摘除術(こんちてきじんてきじょじゅつ))。ただし、創部は大きく、片方の腎臓が失われることによって一定の腎機能低下は避けられないものでした。

腎機能の低下した状態を慢性腎臓病と呼び、この状態では腎機能が正常な人と比較して心筋梗塞(しんきんこうそく)などの血管系の問題が多く生じることが明らかとなり、腎機能の重要性が認識されてきました。それとともに小さな腎がんに対しては腫瘍のみを切除する「腎部分切除術」が適応となりました。腎部分切除術は小さな腎がんであれば、がん制御は根治的腎摘除術と同等であり、腎機能を維持することに関して良い手術です。

腎部分切除術では大きく分けて、①腎動脈の遮断、②腫瘍の切除、③切断面の凝固や縫合のステップであり(図2)、開腹手術や腹腔鏡手術でも可能ですが、創部が大きいことや、手技が複雑であることが問題でした。

図
図2 腎部分切除術の概要

ロボット支援下腹腔鏡腎部分切除術は、これらの問題点を克服し、優れたがん制御と腎機能保持、安定した手術成績をもたらしました。現在では1週間程度の入院期間で治療を行うことが多くなっています。当科では2020年1月から12月までの1年間で17例のロボット支援下腹腔鏡腎部分切除術を施行しています(図3)。腎臓は年齢とともに、その機能は低下していくことが多いため、長く大事に使うことが重要です。患者さんの5年後、10年後の生活を考え、良質な手術を行うことを第一に診療にあたっています。

棒グラフ
図3 過去5年間の腎がん手術治療件数の推移と内訳

膀胱がんに対するロボット支援手術

膀胱がんは50歳以上の男性、喫煙者に多く2種類に大別されます。「根」が浅い筋層非浸潤性(きんそうひしんじゅんせい)膀胱がんと「根」が深い筋層浸潤性膀胱がんです。筋層浸潤性膀胱がんは転移のリスクがあり、より規模の大きな治療が必要です。根治には術前補助化学療法に加え、膀胱を全摘する根治的膀胱全摘術、さらにリンパ節郭清術(せつがくせいじゅつ)(*3)が必要です。開腹膀胱全摘術は手術時間が7時間程度、出血量1500ml程度、入院期間が2~4週間程度を要する大きな手術です。

当科でも多くの膀胱手術を行ってきましたが、本術式の低侵襲化(体に負担の少ない)は1つの課題でした。2018年に膀胱全摘術もロボット支援手術が保険適用となり、当科でも導入しています。手術時間は6~7時間程度ですが、出血量は100~400ml程度と軽減され、術後腸閉塞(ちょうへいそく)や創部感染症の低下に寄与していると考えています。

本術式は膀胱全摘術を年間10例以上行う施設でのみ、保険適用下に施行することが認可されていますが、当科では全国でも数多く、2020年度の本手術は29例です。がん治療における重要な点は根治性、つまりがんの制御であることはいうまでもありませんが、ロボット支援手術により、さらに安全性を向上させた治療を提供したいと考えています。

*3 リンパ節郭清術:手術の際に、がんを取り除くだけでなく、がんの周辺にあるリンパ節を切除すること

更新:2024.09.23